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不幸せだったよね、アポフィライト  





女型の巨人はアニ・レオンハートである―――

そんな推測が飛び交い、そしてそれは今、確かな事実になりつつあった。

エルヴィンは、向かいに座るアルミンと佳奈子の二人を見る。
女型の正体に気づいたアルミンに、彼が見つけた類似点を肯定する佳奈子。

二体の巨人が殺害された際の検査時、アニが提示した立体起動装置は彼女の物ではなく、
戦死したマルコ・ボットという少年の物らしい。そのアルミンの発言に佳奈子は頷いた。

「・・・私もマルコと―――それからアニとも立体起動の整備を何度かしたことがあるので、
アルミンが言っていることは確かです」
「・・・は?カナコ、お前もかよ・・・」

アニの名前が出てから狼狽えているエレンの顔に困惑が混ざる。

「オイ、ガキ。さっきから女型と"思われる"だとか言ってる、他に根拠は無いのか?」

リヴァイがその鋭い視線をアルミンに向けた。
それにアルミンは一旦唇を結ぶと、俯きながら「はい・・・」と頷いた。

「アニは・・・女型と顔が似てると私は思いました」

と、ミカサが後押しするかのように言ったものの、こじつけに近いそれは根拠にはなり得ない。
当然、納得出来るわけがないエレンは立ち上がって声を上げる。

「は!?何言ってんだそんな根拠で―――」
「つまり・・・」

リヴァイが静かに口を開く。

「証拠はねぇがやるんだな・・・」

その彼の一言で、緊張の空気が一気に張り詰めた。誰もが言葉を飲み込んだ瞬間。
最初に声を出したのはエレンだった。

「証拠が無い・・・?」

彼は困惑が限界にまで達した表情を浮かべていた。

「何だそれ・・・何でやるんだ?どうするんだよ・・・アニじゃなかったら」
「アニじゃなかったら・・・・・・アニの疑いが晴れるだけ」

ミカサがちらりとエレンを見上げながら淡々と言葉を発した。

「そうなったらアニには悪いと思うよ・・・でも・・・だからって」

アルミンも視線を上げて、彼に言う。

「何もしなければエレンが中央のヤツの生贄になるだけだ」
「・・・アニを・・・疑うなんてどうかしてる・・・」

それでもエレンは事態を受け入れられないらしく、どこか縋るようにして佳奈子を見た。

「なぁ、カナコもそう思うだろ・・・?お前、アニと仲良かったじゃねぇか・・・」
「カナコとアニは仲良くなんてない。一方的に絡んでくるアニに優しいカナコが"仲良くしてあげただけ"」

間髪入れずにミカサがエレンの言葉を訂正した。
妙な合間が生まれたが、佳奈子は気にすることなく、ゆっくりと彼へ返答する。

「仲が良かったからこそだよ、エレン」

彼女はエレンの方へ顔を向けて微笑んだ。緊張の面持ちが並ぶ中でのこの笑顔は、殊更歪であった。

「仲が良かったから、女型とアニの類似点を見つけちゃうし、違うなら疑いが晴れて欲しいなあって思うの」
「・・・」

エレンはにっこり笑った佳奈子に目を見開いたあと、反論の言葉が見つからなかったらしく、黙って席についた。

―――そして、ちょうど一区切りついたところで、エルヴィンは改めて佳奈子に問うことにした。

「カナコ。アニと仲が良かったそうだが―――」

ミカサがまた訂正しようと唇を動かしかけたが、隣の佳奈子が彼女を制した。
エルヴィンはじっと加奈子を見つめて続ける。

「君は出来るか?」

あえて"なにを"とは、口にしなかった。
それはこの作戦自体であり、アニの拘束、あるいは戦闘、そして最悪の場合は―――
全て引っ括めて出来るのか。そう、確認していた。

賢い彼女になら分かるだろう。
同じく賢いアルミンが、ごくりと唾を大きく飲み込んだのが視界に入った。

「・・・それこそ、仲が良かったからこそですよ団長」

佳奈子はとびっきりの優しい笑顔で深く頷いた。
その時の暗闇よりも黒い色をした双眸を、エルヴィンはいつまでも鮮明に覚えていた。

「仲が良かったからこそ、私が殺してあげなきゃいけないんです。
アニも、他の知らない誰かにそうされるよりも、その方がずっと幸せですもの」




2016.5.29