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ターコイズに眩暈  





―――カナコ・サイトウ。
マルロが出会った曲者揃いのリヴァイ班の中では、彼女が一番まともそうであり、そして普通だと思った。
ひとくせある集団の中で、一人浮いている一見平凡そうな佳奈子。

「ちょっと、いいか?」

故に、そんな佳奈子に興味が湧き、マルロは少し話しをしたいと思ったわけだ。
ヒストリアが作った孤児院での手伝いが一息ついた中、マルロはそう彼女に声をかけた。

「ん?なに?」

彼女は付けていたエプロンを畳んでテーブルに置き、結んでいた髪を解きながら小首を傾げる。
さらりと、髪紐から解き放たれた黒髪がゆっくり流れた。なにも特別ではないその光景。
それなのになぜか見入ってしまい、更に首を傾げた佳奈子に、「マルロ?」と、
不思議そうな表情で見つめられ、マルロは慌てて口を開いた。

「す、すまない。少しぼーっとしていて―――」
「あ!カナコ!!」

と、佳奈子とマルロだけだった会話に大きな声で乱入してきたのはサシャだ。
そして、突如現れたサシャは彼女に抱きついて訴える。

「聞いてくださいよぉ!実はコニーが、」
「はぁ!?ちょっと待てよ!お前が悪いんだろーが!」

更にサシャを追うように割って入ってきたコニーが、「ぜっっったい俺は悪くねーから!!」と、
佳奈子に詰め寄る。サシャも負けじと、彼女を離してコニーに詰め寄った。

「いいえ!!ぜっっったいコニーが悪いです〜!」
「てめ、この芋女!!」

そのまま二人は互いに、「お前が悪い」の一点張りの口論を始めてしまう。
―――事情はよく分からないが仲裁しなくては。このままではまともに佳奈子と話しも出来ない。

「おい。二人とも落ち着け、」

そうマルロが間に入るも、

「マルロは黙ってください!!」
「マルロは黙ってろよ!!」

瞬時に二人から吠えられてしまった。
それについ気圧されてしまったマルロは仕方なく口を閉じる。

話しが通じる相手であったならまだ奮闘したところだが、この二人は理屈がというより、
常識があまり通じない。本能で動く動物のようなタイプだ。マルロには扱い方が分からない。
このまま終息するのを待つかと傍観を決め込めば、ふいに佳奈子がパンパンと手を二回叩いた。

「はいはい、二人とも一旦口を閉じる」

彼女が微笑すると、先程のマルロの時とは打って変わって、サシャとコニーは大人しく口を閉じた。
素直な二人の態度に佳奈子はうんうん頷く。

「よし。それじゃ、まずはサシャから聞こうか?」

―――そうして二人の言い分を聞いた佳奈子は、互いが納得いくようにきちんとした判決を出した。
言い争いの内容は、マルロからしてみれば呆れて物も言えないほどで。
よくもまぁ彼女はこんな話しに最初から最後まで付き合ったものだと関心した。

仲直りをして去っていった二人を見送りながら、佳奈子は頼られているのだなとマルロは思った。
サシャとコニーが公平な審判を望んで彼女の元にやって来たのがなによりの証拠だ。

そしてそれを皮切りに―――

「あ、カナコ。ちょっと相談したいことが・・・」

と、アルミンが顔を覗かせたり、

「カナコいる?ごめんね、この子がカナコがいいって聞かなくて・・・」

と、ヒストリアがぐずっている孤児院の子どもを連れてきたり、

「このまともに野菜の皮むきも出来ないコイツと変わってくれよ、おチビちゃん」
「はぁ!?ジャンより俺の方がマシだ!!お前がカナコと変われよ!」

と、エレンとジャンがいがみ合いながらやって来たり、

「・・・カナコに用があるなら私を通してからにして」

と、最後には鋭い視線のミカサになぜか牽制されたり。

短い間に何人もが佳奈子を訪ねてきた。
流石にここまで来れば、マルロの中の平凡な佳奈子像はすっかり消え去っていた。

彼女はその小さな身体に大きな信頼を寄せられていても、その重みに潰されることなく、
むしろ応えることが出来る、人望のある人物のようだ。マルロは認識を間違っていた。

―――佳奈子は浮いていたのではない。佳奈子が中心だったのだ。

見誤っていた認識が晴れれば、彼女が別人のように変わって見えた。
目を引く、姿勢の良い佇まい。常に真摯な態度。それから、

「あ、ばたばたしちゃってごめんね?話しがあるんだよね?」

相手をほっとさせる柔らかな笑み。力んでいたマルロの頬は、ほどよく力が抜けた。

「いや、もういいんだ」



2016.5.10