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暴力的なバイオレットサファイヤ  





ひんやりなんて優しいものじゃない、骨まで凍ってしまいそうな冷たい空気に、
薄い毛布にくるまったイザベラは震えた。

毎日生きていくだけでも精一杯なこの地下街では、温かい寝床などもちろん望めない。
固くて寝心地は最悪だが、寝床があるだけでもイザベラは充分に恵まれている方だ。
震えながら吐き出した息は、室内でも白い。

夏場は過ごしやすいが、冬はご覧の有様だ。
なんでも暖かい空気というものは軽く、冷たい空気は重いのだと、二段ベッドの上―――
イザベラの上で寝ている佳奈子が言っていた。
空気に重い、軽いなんてものがあるのかと不思議だったが、博識な彼女が言うのなら間違いは無い。
イザベラが疑うまでもなかった。

そんな佳奈子が教えてくれた、寝れない時は羊を数えろという作業をイザベラが実行しようと
すれば、ベッドにかかっている梯子が揺れた。

「・・・ごめんイザベラ。起きてる?」

小さな声を背中にかけられて、イザベラはそちらに体を向ける。
薄い暗がりの中に、毛布をまとい、下がり眉をした佳奈子がいた。

「どうしたんだ?姉貴」

動いたことで新たな寒さがイザベラの肌を襲い、ぶるりと震える。

「ん、ちょっと寒くて寝れなくて・・・」

「それでさ、」と、彼女は恥ずかしそうに少し視線を逸した。

「―――よかったら一緒に寝てもいい?」

思ってもないそれに、イザベラはきょとんとする。いつも佳奈子に頼りっぱなしのイザベラ。
そんな自分が、まさか彼女にこんな風にお願いされる日が来ようとは。
そしてなにより、いつも年上の余裕がある表情をした佳奈子が、雰囲気がまるで違う照れた顔を
していることに、イザベラは見入ってしまっていた。

「やっぱ、ダメか・・・」
「あっ!いや!ダメじゃねぇって!」

しゅんとした彼女に、イザベラは慌てて身を起こして訂正する。

「あ、姉貴がいいなら俺は全然・・・構わねぇよ、」

佳奈子の照れが伝染ったのか、尻すぼみながら言う。
すると彼女は、この寒い中でも春を連想させる、ふんわりとした微笑みを浮かべた。

「やった。それじゃ、お言葉に甘えて・・・」

佳奈子は毛布を引きずりながら、イザベラの隣に寝る。
狭いベッドの上では、彼女の体温と匂いがやけにはっきりと伝わった。
こうして静かな場所で、こうしてくっついているのは、なんだかどきどきとした。

「・・・あぁ、懐かしいなぁ」

ふと、佳奈子が呟いた。どこか遠くを見つめている彼女は、イザベラの知らない女性であった。
―――それがたまらなく嫌で、イザベラは佳奈子にぎゅっと抱きついた。

自分の知らない佳奈子。
地下には不釣合いな彼女が上から来たであろうことは、頭の回転が遅いイザベラでもなんとなく想像がつく。
けれど、もうここに堕ちてしまったのならば地上には帰れまい。
いや、帰してなるものかと、イザベラはすがりつくように、纏わりつくように佳奈子に抱きつく。

佳奈子はそんなイザベラの気持ちなど知らずに、笑ってイザベラの頭を撫でた。

「あはは。やっぱり、こうして二人でくっついてるとあったかいね」

確かに、寒さはとうに消えていた。その変わりに、氷のように肌を刺すような、炎を一緒くたに練り固めたような。
そんな感情がイザベラの中で渦巻く。

今の生活がずっと続けばいい。それさえ叶えば他はなにも望まない。
だから自分から佳奈子を奪わないで欲しい。奪われ、奪い続けたイザベラはたった一つ願った。

―――しかし、そんな悲願も叶わないのがこの世界であることを再確認するのはあと少し。

「おやすみ、イザベラ」



2015.3.18