グロシュライトガーネットの偽善と偽悪
ベルトルトが調査兵団施設の廊下を歩いていると、柱にもたれかかり、中庭を眺めている佳奈子を見つけた。
挨拶しようと近寄ったところで、彼女の左の頬が赤くなっていることに気付く。
「カナコ、どうしたんだいその頬・・・」
「―――あぁ、ベルトルト」
佳奈子はベルトルトの存在を認識すると、いつものように微笑む。
しかし少し腫れた頬が、その笑顔と相まって痛々しい。
「誰かにぶたれたの・・・?」
「・・・うん。まぁ、そんなとこ」
佳奈子は伏し目がちで、赤くなった頬を擦る。
人を怒らせる態度など取るはずの無い彼女を、叩く人間などいるのか。
だが、現に佳奈子の頬は腫れている。ベルトルトはそのことに、なぜかどうしようもなく衝撃を受けた。
彼女は頬を擦りながら、
「"あんたは優しいんじゃない、偽善者だ"―――って言われたんだ」
か細い声で告げた。その言葉でベルトルトは察した。
―――佳奈子は相手のことを思ってやったのに、あろうことかその相手は彼女を"偽善者"と罵り、そして叩いたのだ。
どこでそんな判断をしたかは分からないが、佳奈子は偽善者などではない。ベルトルトには分かる。
だって、偽善者というものはベルトルトのような奴を言うのだから。
ここにこうして、佳奈子の前にいる時点でとんでもない偽善者なのだ。
「私って偽善者なのかな、」
佳奈子は誰に言うでもなく呟く。
「君は偽善者なんかじゃないよ」
いつになく、はっきりとベルトルトはそう断言することが出来た。
それからもう一度、断言する。
「"君は"、偽善者なんかじゃないよ」
2015.3.2