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キャストライの待ち人は未だ来ず  





じろり。

正にその効果音がお似合いな視線を佳奈子は感じている。
何か仕出かしただろうかと、棚を雑巾で拭きながら原因を考えるも心当たりはない。

―――なぜ掃除をしながらかというと、今佳奈子がいるのはリヴァイ班のいる古城であり、
そしてそこで一番偉い彼、リヴァイに掃除要員としてお呼びがかかったからだ。
掃除に駆り出されるのは珍しい事じゃない。恐らくハンジの部下というのもあって声をかけやすいのもあるし、
なにより雑用には持って来いの新兵だからだろう。

だが、リヴァイもまたミカサ同様に佳奈子の事を知っている節がある。―――いや、絶対に知っている。
もしかしたらそれを含めて、掃除とかこつけて呼びつける・・・のかもしれない。単なる推測だ。

彼は自分を知っているかもしれないが佳奈子には分からない。
ただでさえリヴァイという男は読めないのだ。だから、彼がこうして佳奈子を見ている理由が分からない。

「―――おい」
「は、はい」

やっと声をかけられて、少しびくつきながら佳奈子はリヴァイの方へ顔を向ける。
その身長にしては長い脚を組んで、椅子に座っている彼の目つきはとても鋭い。

「その髪、どうにかなんねぇのか」

掃除への小言かと身構えていた佳奈子はやや拍子抜けした。しかしいきなり髪の事を指摘されるとは思ってもみなかった。
佳奈子の髪型は、毛先が肩につくかつかない程度の中途半端なショートヘアだ。
髪質のせいなのか、シャンプーもリンスもないこの世界のせいなのかは分からないが、
毛先はまとまらず、広がってしまっている。彼はそれを言っているのだろう。

「・・・いや、もう癖がついちゃって直らないんです」

佳奈子は素直にそう言った。するとリヴァイは立ち上がり、椅子の後ろへ周った。

「座れ」

自分が座っていた椅子に佳奈子を促す。拒む理由も、拒める位置にもいない佳奈子は大人しく座った。
すっと、髪をつまむ感触がした。それから頭皮を何かがなぞっていく。この慣れた感覚は櫛に違いない。
綺麗好きなリヴァイは、ハンカチはもちろんの事、櫛まで持ち歩いているようだ。

「ちっ、真っ直ぐになんねぇな」
「あはは、すいません・・・」

舌打ちする彼に、佳奈子は乾いた笑いしか返せない。
リヴァイが再度髪を梳かす。と、彼が手にしている櫛が佳奈子の目に付いた。

「その櫛、兵長のなんですか?」

飴色の金属製の櫛。形は半月で、でも鳥と花が彫ってあるそれは、男性用の物とは思えなかった。

「・・・」

リヴァイからの返事は無い。後ろにいる為、彼がどんな表情をしているのかは分からない。
もしや聞いてはいけない事だったのだろうか。佳奈子は謝ろうと口を開く。
しかしそれより先に、

「―――いいや、俺のじゃない」

リヴァイが言った。そして彼は「これは、」と続けたのだが、その先を聞く事は出来なかった。

「・・・なんでもねぇ」



2014.12.26