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あの巨星を食べる



もぐもぐ、むしゃむしゃ、ごくんと、ミッシェルの向かいで食事をするゆづる。
彼女の食べっぷりはいつ見ても気持ちがよい。ミッシェルはゆづるとの食事が好きだ。

数年前まではどうにも他人と食事を共にするというのは気が乗らなかった。
その理由は、食事の量が常人とは違うからだ。
ミッシェルだって年頃の女だ。体重だってそうだが、食事の量を見られて、
この女はこんなに食うのかと思われるのはいいものじゃない。

―――だから、「一緒に食堂に行こ!」と、初めてゆづるに食事に誘われた時は正直迷った。
口には出さないが、ゆづるはミッシェルにとってとても大切な友人だ。
そんな彼女が食事に誘ってくれたのだから断るわけにもいかない。
しかし、ミッシェルの食事の量を見ゆづるはてどう思うだろうか。それが気がかりだった。
けれど友人と、ゆづると食事をしたいという気持ちも強かった。

ミッシェルは迷った結果、全然足りない普通の量を食べて、あとでその分を補うことにした。
こうすればゆづると食事も出来るし、ミッシェルも気にする必要も無い。

―――だが、そんなミッシェルの杞憂もすぐに吹っ飛ぶことになった。
バイキング形式でゆづるがトレーに乗せて持って来た量といったら。
ミッシェルと同等か、それ以上。誰もがぎょっと目を見張る量であった。

ゆづるはわりかしスレンダーな方だ。
それに日本人が食べる料理の味の薄さや、量で、きっと少食なんだろうなと
ミッシェルは思っていた。それが見事に引っ繰り返った。

呆然とミッシェルが見ていると、席についたゆづるはミッシェルのトレーを指差して言う。

「ミッシェルちゃん、それしか食べないの?」

それから「私の分けてあげるよ!」とにっこり笑って、ミッシェルの返事も聞かずに
次から次へとトレーに料理を盛っていく。
お構いなしの彼女に、人の目を気にしていた自分が馬鹿のように思えてきた。
ミッシェルは密かに口角を上げて笑い、ゆづるがたんまりと乗せた料理に手をつけた。

―――その次の日、ミッシェルはいつもの自分が食べる量を盛った。
ゆづるはそれを見ても特になにも言わず、笑っていた。



もしかしたらあの時ゆづるはミッシェルを気遣ってくれたのかもしれない。
彼女はそういう他人のことには賢く、敏感なのだ。

「ミッシェルちゃん!このデザート美味しいよ!」

ゆづるはなんとも幸せそうな顔で、ミッシェルにチョコケーキが乗った皿を差し出す。
その様子からは、とても他者を気遣うことが出来る器用な人間には見えない。
―――ただ単に能天気なだけだなと、ミッシェルはそう一人思った。

「あんまし食べると豚になるぞ」
「ミッシェルちゃん酷い!」

「でも食べちゃう!」と、ゆづるはチョコケーキを頬張る。
ミッシェルも彼女から差し出されたそれを口にする。確かに美味しい。

でもこれはチョコケーキだけの美味しさではない。
ゆづると共にする食事は、いつだってミッシェルの中では最高に美味しく
楽しい時間なのだ―――




「あの二人すんげぇ食うのな・・・」
「その分、栄養が胸にいってるんだろ」
「なるほど」
「「それに比べてシーラときたら・・・はぁ」」
「あんた達、ほんと失礼ね!」



2015.1.1