私たちの出会いは引力だった
他人と自分は違う。
ミッシェルは十三歳のあの瞬間からずっとそう思って生きてきた。 人とは言えない、女の子とは程遠い自分など、所詮他人と分かり合うことなど 出来はしないのだ。だから、学校だろうと何処だろうと、あまり人とは馴れ合わず 距離を置いてきた。その結果、誰もミッシェルと深く関わろうとしなかった。
―――これも全てはこの呪わしい力のせいだ。 しかし、呪わしい呪わしいと忌み嫌っていたこの力は父からの遺伝――― 目には見えない家族の愛だと分かった。 かくして呪いは、十一年という歳月を経て解けたのだった。 そして発覚したこの事実の月日は、四月十九日、ミッシェルの二十二歳の誕生日。 まるで父が祝福してくれているようでもあった。
また父は新たな出会いをプレゼントしてくれた。 後日ミッシェルは、U-NASA施設内の中庭で病院着を着た、黒髪の東洋人の女が しゃがみこんでいるのを見つけた。 その髪と同じ真っ黒な目は熱心に何かを見ていて、視線を追ってみればそこには 蟻が行列を作っていた。蟻たちは自分より大きな虫の死骸を持って、ぞろぞろと 凱旋パレードのように歩いていく。何ともまぁ、つくづく蟻という生物に縁があるものだ。
「・・・お前なにしてんだ?」
ふと、気付くとミッシェルはそう声をかけていた。 彼女のその小さい背中が、いつだったかの幼い自分と重なり、なんとなく気になった。
「やっぱりアリさんは、虫の中で一番の力持ちだなあって」
彼女はどこから取り出したのか、マシュマロを放ばりながら子どものような笑みを向けた。 父と全く同じことを言う彼女に思わずミッシェルは目を見張る。
・・・本当に、蟻という生物はミッシェルの人生に、その行列のように途絶えることなく 関わってくる。ミッシェルはふっと笑って彼女の隣にしゃがみこんだ。
「奇遇だな、私もそう思う。・・・お前名前は?」 「ゆづる。蟻原ゆづる!」
人受けの良さそうな、愛嬌のある笑顔で彼女は、ゆづるは名乗った。
―――それが、ミッシェル・K・デイヴスと蟻原ゆづるの出会いだった。
2014.10.8
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