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呪術高専【現在】

影法師行進曲


一途とは──『他を考えないで、一つのことに打ち込むこと。また、そのさま。ひたすら。ひたむき』

それはおよそマイナスの印象が湧かない、むしろプラスの単語だ。
この単語を述べたのも根明な新しい五条の教え子、虎杖悠仁であった。

正直、彼の口から出た時、五条は言葉が見つからなかった。
一途という言葉にも虎杖にも罪は無い。ただ取り合わせが悪かった。

──なんだか、一途だ。

虎杖はよりにもよって"彼ら"に、実愛の一生に憑いているあの異形どもに当てはめてしまったのだ。
そんなの執着と執心の間違いだろに。

なのに一途だなんて聞こえが良くて、すわりのいい言葉をあてがってしまうのはまるでそれが免罪符のようで。
五条は到底受け入れられなかった。

一途だから、取り憑いていいのか。
一途だから、一方的な愛を注いでいいのか。
──一途だから、なにもかも許されるのか。

そんな、そんなはずはない。あってはならないのだ。
許してしまったら、彼女が一途に殺されているのを肯定してしまうことになる。

生まれてから今の今まで一途が実愛を殺し続けていることを。

「ちょっと凹むよなぁ……」

五条は車の中でついぼやいた。

「えっ、五条さんって凹むことあるんですか?」

運転手の伊地知がひどく驚いた様子の声で五条のぼやきを拾った。
人を能天気だと言わんばかりの失礼な驚き方に五条はむっとしながら、運転席に手をかけて彼の顔を覗き込むように後部座席から乗り出す。

「なに?それはどういう意味で言ってる?」
「ヒっ……!い、いえ、五条さんほどの人でも凹んでしまうこともあるのかなぁと……」

威圧感を与えればあっという間に冷や汗だらだらになった横顔に満足して五条は席に体を戻した。

「僕だってあります〜!五条さんは繊細なんだぞぉ」

口を尖らせてみれば伊地知は困惑した声を漏らしたので座席を軽く蹴る。再び彼の悲鳴が小さく漏れた。

「や、止めてくださいよ……!運転中なんですから……」
「あはは!ごっめーん僕の長い足が〜」

笑い声を上げながら五条は頭の後ろで腕を組んだ。
少し車外を眺めたあとに「ねぇ、伊地知」と五条は口を開いた。

「伊地知はさ、実愛の"あれ"が一途だと思う?」
「……一途だなんてものからは一番遠い存在だと思いますが」
「だよねぇー」

「だよねぇー……」と、天井を見上げながらもう一度呟いた言葉は実に空虚だった。



2020.11.18