「なぁ、飯田と剣先って付き合ってんのか?」 「ぶふぅっ!!」 上鳴の唐突な言葉に、飯田は口に含んでいたカレーライスを思わず吹き出してしまった。 それに「汚ねぇなあ!」と上鳴が文句を垂れるが、原因は彼にあるので飯田も負けじと反論する。 「君のせいだろうが!!・・・そ、そんな急に剣先くんと交際してるか、ど、どうかなんてっ・・・!」 飯田は口元を拭いながら、赤くなっているであろう顔を見られまいと俯く。 身体中に響く心臓の音のせいか、昼休みでごった返している食堂の喧騒がどこか遠くに感じる。 こんなことを聞かれるのも和叶が一緒じゃないからだが、今日は女子で昼食なのだと、 麗日と連れ立って行ってくれて心底ほっとしていた。 吹き出した際に器官にでも入ったのか、飯田が少し咳き込めば、隣でカツ丼を食べていた緑谷が 心配そうに背中をさすってくれた。 彼にお礼を言っていると、再び上鳴が喋り出す。 「だってよぉ〜お前ら同中で仲も良いだろ?だから付き合ってんのかなって」 「どうしてその二つから交際に導き出されるのか、僕には理解に苦しむ・・・」 「他のヤツらだってそう思ってるって!な、緑谷!」 「えぇ!?ぼ、僕っ!?」 まさか話しを振られると思っていなかったであろう緑谷は上ずった声を上げた。 誰がどう見ても動揺しているのが分かる。 「・・・ぼ、僕は、そうは思わなかった、かな」 うろうろと定まらない視線で、緑谷はぽそりと言う。 「確かに二人は仲良いけど、信頼してるっていうか、互いのこと尊敬し合ってるっていうか・・・ そういう風に見えたから・・・」 「こ、恋人とはまた違うかなって・・・」と、そこまで言って恥ずかしくなったのか彼はカツ丼をかき込んだ。 「緑谷くん・・・!」 やはり彼は他の人間とは違って見る目がある。 感動する飯田に、上鳴の隣で昼食を共にしていた切島が同意するように頷いた。 「うんうん。俺も緑谷と同意見だな!飯田と剣先は良いコンビって感じだ!」 にかっと、快活な笑みを見せる切島。そんな彼とは逆に、上鳴はつまらないといった心情を露骨に顔に出した。 「ちぇーマジかよお前らー・・・あ。そういや、剣先って人気あるだろ?中学でもそうだったん?」 「箸で人を指すのはやめたまえ!・・・まぁ、彼女は 勉学も運動も優れていたし、 なにより人間が出来ていたからな・・・周囲から頼りにされていたよ」 まるで自身のごとく飯田が胸を張れば、上鳴、緑谷、切島の三人は揃って口を閉ざし、妙な顔で自分を見ていた。 「?どうしたんだ三人とも??」 飯田は顎に手をやって首を傾げる。 「いや、今までの話しの流れでどうしてそっちに逸れるのか俺には理解に苦しむ・・・」 先ほどの飯田を真似て上鳴が溜め息を吐いた。 「飯田って天然だよなあー」 「そういうとこ飯田くんらしい、よね・・・」 切島は笑い、緑谷が苦笑する。自分はなにかおかしなことを言っただろうか。 そう、現状が把握出来ない飯田に、上鳴が身を乗り出しながら決定打を突き付けた。 「だーかーらー!男子に人気あっただろう!?モテてただろう!?って聞いてんのっ!!」 「そ、そういうことか・・・」 そこまではっきりと言われれば流石に飯田も分かる。けれど─── 「・・・すまない、分からない」 本当に分からない。男子ともそんな話しはしたことがなかったし、なによる和叶本人からもその手の 話しは聞いたことがなく、また素振りさえなかった。 「おいおい、マジか・・・」 テンションが下がるように、上鳴は乗り出していた体を席に落ち着ける。 「男子とはそういう話ししなかったのか?」 「あぁ、全く・・・」 切島に力無く答えると、「まぁ、聡明中だもんなぁ」と彼は合点がいったように首を縦に振った。 「剣先さん自身からは・・・?」 「あぁ、なかった」 「・・・だよね」 またも緑谷が苦笑すると、上鳴が復活した。 「飯田の証言はともかく!モテてたに決まってるよな〜美人だし」 美人と聞いて、ふと飯田は思う。 今まで和叶を特別意識して見たことがなかったが、改めて彼女の容姿を思えば美人という部類に当てはまるだろう。 常に弧を描いている小さな唇。左右対称の形の良い澄んだ瞳に、少し高めの鼻。 華やかな顔立ちの彼女は、笑うともっと、それこそ花が咲くような華やかさがあって─── そこまで思考が進んだところで、飯田は急に体が火照り始めたのが分かった。 何故だか、彼女のことを想うと熱くてむず痒くなる。 そして、そんな状態の飯田に上鳴は酷なことを言うのだ。 「で、ぶっちゃけ飯田は剣先のことどう思ってんだよ?」 にやにやといつも以上の間の抜けた顔で頬杖をつく彼に、乗せられてなるものかと飯田はぐっと堪えて極めて平静を保つ。 「・・・良き友人で、尊敬出来る人だ、」 「その割には顔赤ぇけどー?」 「っ!からかうのも、ほどほどにしてくれないか!」 「そうだぜ上鳴。いい加減しつこいぞ」 切島が上鳴を肘で小突いた。すると上鳴は降参だとばかりに両手を上げる。 「分かった、分かった!悪かったよ!ずっと気になってたからさ」 と、そこで彼の視線が横にずれた。 「・・・あ、噂をすれば剣先。やっぱ人気あんだな。あれ、普通科のヤツ、」 「剣先くん!!!!」 上鳴が言うように、食堂を出ようとしている和叶に普通科の男子生徒が話しかけているのを視界に捉えた飯田は、 乱暴に立ち上がり彼女の元へ脚を早めた。 明確な理由は説明出来ないが、そうしなければならないと思ったからだ。 「ほら見ろ!やっぱり惚れてんじゃん!」 「あー、こりゃそうとしか言いようがねぇなあ」 「うん・・・飯田くん分かりやすい・・・」 自分が正義だと言わんばかりの上鳴の主張に、切島も緑谷も頷くしかなかった。 2017.5.19 |