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イェンス・ムンクが咲いたなら





今後クラスをまとめる中心を決める学級委員長選挙。
立候補の時点で我こそがと名乗り出る者が大半を占め、一見すれば"意欲があって素晴らしい光景"となった。

が、その強い気持ちから、投票では各々自分に入れるというとんでもない事態が起こってしまった。
しかし立候補者の全員がそうだったわけではない。
不正や曲がったことが許せない、真面目が服を来て歩いているような彼───飯田天哉は、
クラスの長に相応しいであろう人物、入学試験から一目置いている緑谷出久に一票を投じた。

そうして開票後、きっちりと他者に投票した飯田は、周りから馬鹿正直だと言われたが、
そんな正直者だった自分に誰かからの一票が入っているのをしかと確認出来た。

思わず飯田は振り返る。窓際の一番後ろに座る女子生徒を見てしまう。
こちらの視線に気づいた彼女は、にこりと見慣れた微笑みを返してくれた。
春の日差しも相まってか、それはとても優しいもので少し頬に熱が昇った。

・・・きっと、自分に入れてくれたのは彼女なんだろう。

けれども、推測だけで飯田には胸を張って断定が出来なかった。
同じ中学の同級生の彼女───剣先和叶は緑谷同様、飯田が認めた存在だ。
文武両道で、その表情一つで周りを安心させられる和叶は実にヒーローに相応しい人物である。

だからそんな彼女からの一票が自分に投じられたのは至極嬉しいのだが、
にわかには信じ難いものでもあるわけで。

───なんて思考を巡らせている間に、あの時は最多投票である緑谷に決まって
流れてしまったのだった。





「剣先くん、一つ聞いてもいいだろうか?」

ある日の放課後。緑谷とお茶子と別れたあと、飯田は隣を歩く彼女を見下ろした。

「もちろん、いいとも。私と飯田くんの仲だ。なんでも聞いてくれたまえ」

和叶はまるでミュージカル俳優かのように台詞めいた言葉を出し、不必要な身振り手振りも加えた。
様になっているからか、この付き合いの仲うっとうしいと思ったことは無い。
むしろ、たまに和ませられるぐらいだ。

「では、お言葉に甘えさせて貰うが・・・学級委員長を決める際、俺に投票を
入れてくれたのは君だろうか?」
「・・・逆に私以外に誰がいる?」

彼女はやれやれと言った様子で肩をすくめた。

「いや、僕、俺なんかに君が投票してくれるとは思わなくて・・・自信がなかったんだ」

情けないなと、頬をかく飯田の言葉尻は小さくなる。

「飯田くんは昔からやけに私を評価してくれるね」
「当たり前だ!なんたって君は才能があるからな!」

飯田が先ほどとは打って変わって声高に言えば、和叶はくすっと笑みを零した。

「ふふ、私も一緒だよ。しっかり者で、正義感の強い飯田くんなら学級委員長に
相応しいと思って投票したんだ」

「最初は残念だったけど、」と、彼女は眉を下げて苦笑する。
前を見る和叶の瞳が夕日の煌きを受けて輝く。その美しさについ飯田は息を呑んだ。

「でも、やっぱり飯田くんになったね」

そう、和叶は顔を覗き込むようにして笑顔でこちらを見つめた。
飯田の口元も彼女に習うようにして緩む。

"やっぱり"という委員長が決まったあとでも揺ぎなく自分を思っていてくれたこと、
そしてなにより大勢の中から飯田天哉を選んでくれたこと。

「・・・君のおかげさ」

照れくさくて眼鏡をかけ直す振りに紛れてそれを隠す。すると彼女はけらけらと笑った。

「私は大してなにもしてないよ!全部、飯田くんの力さ!」

───昔から君に助けられているんだよ。

言えたらいいのに、嬉しさで固まった飯田の唇は一向に開くことがなかった。



2017.4.20