【その笑顔はダメなんだって】
「―――長谷部って、私のこと主命くれる人としか見てないよねぇ・・・」長谷部が持って来てくれた政府からの書類に目を通しながら、私はぼそっと呟いた。
相変わらず難しい文面で全く分からんぞ。
「・・・まぁ、彼も彼で前の主と色々あったみたいだからね」
私の呟きを歌仙が拾う。
「うーん・・・それは分かるんだけどさぁ・・・やっぱ距離があって寂しいなぁ・・・」
「寂しい?君は随分と不思議なことを言うね。僕達は君に仕える刀、そして君は主だ。
ある程度の距離があるのは当然のことじゃないか」
「主従関係ってやつ?・・・私には難しいなぁ」
「・・・あぁ、そうか。僕達が生まれた時代と、主の時代は大きく異なっているんだったね。
僕達が必要の無い平和な時代だ」
「まぁ、完璧に平和ってわけでも無かったけど・・・」
「―――それでも君が幸せに育ったのが僕には分かる。君が平和な中で生まれ育って嬉しいよ」「・・・・・・歌仙達がいたからこその、私の時代だと思う」
「そうか・・・・・・そうだね。何事もどこかで因果関係を持っているものだ」
「なんか風流だね」
「おや。主も分かるようになってきたようだねぇ」
「なんだろうな・・・主ってのは覆らないわけだから、それはまぁ仕方ないって思うけど・・・
ちゃんと私を見て欲しいかなぁ・・・・・・あぁ〜!!もう!」
もやもやとした気持ちを晴らすように私は頭をぐしゃぐしゃ掻く。
「気付かなきゃよかったなぁ。こんな状態で長谷部に会ったら、絶対なんかあったって気付かれる・・・」
「察しがいいからね。こと、主に関しては」
「性格的にも直接聞いてきそうだし・・・言っても言わなくても長谷部に悪いなぁ」
「・・・君は本当に優しいね」
「・・・・・・別に優しくないし。結局困るのは私なんだから、」
「そうやって捻くれてみせて、わざと自分を悪く見せる所もね」
歌仙はとろけそうなほどの柔らかい笑みを顔に浮かべて、ぐしゃぐしゃになった私の頭を撫でるように整える。
ダメだ。この笑顔に私は弱い。私はなるべく歌仙の顔を見ないようにして視線を外した。直視していてはボロが出る。
そしてまた、そこを歌仙にいじられる。嫌な連鎖だ。
「そういうの、やめて」
「そうだね。君は照れ屋だからね」
「ほんと、まじでやめろ」
「あぁ、ここまでにしようか」
「・・・・・・・・・文系ゴリラめ」
「なにか??」
「イエ。ナンデモナイデス」
「あー・・・どうしよぉー」
「こればっかりは話し合うしかないね・・・ちょうど廊下に本人がいるから話し合ったらどうだい?」「え」なんでそういうこと早く言わない。
2015.9.17