【天丼しなくていいんだよ!】
「どうしよ・・・」どうしよ、太ったかもしれない。制服のスカートがキツくなったのに気が付いた今。
その危機感が私の中で巡り巡る。ついでに原因も縦横無尽に飛び回る。
美味しい手作り料理、美味しい手作りのお菓子。
それらを毎日口にしながら事務仕事しかしてないんだから太るのは必然だ。
とりあえず昼ご飯を食べて膨れたお腹にはこのスカートは地獄なのでジャージを穿く。
鏡の前の自分を確認する。ジャージ越しのお尻のラインがくっきりしてきたかもしれない。
顔も丸くなったかもしれない。・・・痩せねば。冷や汗をかいた私はなにかに追われるように自室を飛び出した。
「同田貫さん、同田貫さん。ちょっといいですか」
「あ?んだよ」
庭で腕立て伏せをしている同田貫に靴を履いて近付く。
小柄な彼だが晒された上半身は逞しく筋骨隆々だ。
「・・・あのさ、私でも出来るトレーニングメニューあるかな?」
「トレーニングメニュー?なんだってんなこと。あんたが鍛えたってしょうがねぇだろうが」
「いやー私も鍛えるつもりは無いんだけど・・・ちょっと体を絞りたいというか・・・」
「はっきりしねぇなあ。単刀直入に言ってくれよ」
「・・・ふ、太ったからダイエットしたいんです!」
「太っただぁ??」
はっきりしろと言われたからその通りにしたら同田貫は怪訝そうな顔で私を上から下まで見る。
同田貫からしたらどうでもよさそうなことだよね。はぁ・・・恥ずかしい。
熱を持った顔で俯く。と、不意に同田貫の顔が下になった。彼が私の顔を覗き込んでるわけじゃない。
屈んでるわけでもない。私が持ち上げられたからだ。
「えっ!?ちょっと!?同田貫!?」
ほんとここの連中は人を物理的に持ち上げるやつらばっかりだな!あ、お空きれい。
きょどる私に同田貫は私を持ち上げたまま真顔で一言。
「なんだよ。持てるじゃねぇか」きょとんとした顔の私をそのまますとんと下ろす。
持てる・・・?持てる持てないで判断するのか?
というか、一俵六十キロの米俵を平然と持つやつに言われてもなあ・・・
「・・・いや、あのね?持てる持てないじゃ無くて、」
「なにやってんだ?」
「杵くん!」
「太ったんだとよ」
「太ったぁ?」
「ぎゃっ!なんでそうストレートに言っちゃうかな!?刀だけにってか!?」
「は?」
御手杵に正直に言っちゃう同田貫に思わず逆切れしてしまうがよく分かってない模様。
別にいいんだけどさぁ!乙女心ってものがですね!主にだってあるんですよ!!乱ちゃん助けて!
さっきの同田貫と同じく「主、太ったのか?」なんて言いながら私を上から下まで見る杵くん。
君もオブラートに包むってことをしないね、相変わらず。
「うん、そうです。太りました。はい」
投げやりに言えば、御手杵がずいっと近付いて来た。もしかしてと思う間もなくまた宙に浮く我が身。
ただ、先ほどよりも高度は高い。
「全然持てるぜ、主」「これさっきもやった!!」2018.1.20