【私に似合うだろうって買ってくれたらしくて号泣】
「あー!江雪!どうしたのその髪!!」「・・・宗三が暑いだろうと、」暑くて執務なんかやってらんねぇ!と本丸をぶらぶらしていた私は、なんとはなしにたどり着いた
左文字兄弟の部屋である発見をした。
セミがうるさい中でも江雪の声は相変わらず静かで、夏の暑さに反してひんやりだ。
そして今日は───あのさらっさら超ロングストレートを綺麗に結い上げてうなじを見せている。
実に眩しい。これが先ほど私が声を上げた原因だ。
「おかしいでしょうか・・・?」
「そんなことないよ!すっごく素敵!」
「そう、ですか・・・」
江雪はうっすら笑う。その笑みに暑さにやられたかのような眩暈を感じた。美人・・・いや、美"刀"だ。
ばみちゃんとか江雪とか普段表情を崩さない刀は、ちょっと笑っただけでも心臓がもたない。
私はぱたぱたとうちわを仰いでいる宗三に顔を向ける。
「宗三すごいね!」
「別に・・・大したことではないですよ」
「大したことだって!編み込みも綺麗だし、私はこんな風には出来ないよ」
「それはあなたが不器用なだけでは?」
「あ〜!!事実なだけに言い返せない・・・!」
そうだ、この対応こそが宗三左文字だった!言い表せない悔しさに、ごろごろごろごろと私は畳を転がる。
それをまた江雪はどこか楽しそうに薄く笑いながら見ていて、そして宗三の言葉が私を止めた。
「・・・あなたがよければやりましょうか?」「え!!いいのっ!?」
「ええ。別に構いませんよ」
「じゃ、じゃあお願いします・・・!!」
珍しく、嬉しい誘いに私は飛び上がり彼の近くに行く。
宗三という刀は私の扱い方を分かっているというか、飴と鞭、ツンとデレの配合が巧みである。だから好き。
鏡台の前に座ればにやにやとした私が映っていて、もちろん宗三に怪訝な顔をされたが仕方がない。
「なんですか、そのいつも以上にしまらない顔は・・・」
「えへへ!だって嬉しくて!」
「はぁ・・・あまり動かないでくださいね」
「はぁい」
「出来ましたよ」
「わぁ・・・!素敵・・・!!」
これが私・・・?なんてお決まりのリアクションしつつ、左右に顔を向けながら結ってもらった髪を見る。
江雪とはまた違う髪型に感動していれば、鏡の中の宗三が髪になにかを挿した。
なんだろうかと私が顔を動かすと、しゃらりと何かが揺れる。───簪だ。しかも高そうな。
「えっ宗三、こんな高そうなのしてくれなくても、」
「僕の見立てにケチをつけないでください」
「あ、はい」
「・・・主?」ひょこっと新たに鏡に映ったのは小夜ちゃんだった。小夜ちゃんは大きい目をぱちぱちとさせる。
「・・・いつもと違う。兄様にしてもらったの?」
「そうなの!宗三すごいよね!!」
「うん。綺麗だよ主」
「あ、ありがとう・・・」
嬉しいけれど、恥ずかしい。つい俯いてしまうと、小夜ちゃんの小さな手が私の手をそっと引いた。
「ねぇ、主。綺麗だからみんなに見せに行こうよ」
「うぇえ!?そ、それはなんか恥ずかしい!!」
「なんで?もったいないよ」
小夜ちゃんは早くとばかりに私の手を引っ張る。
・・・ここは誰も彼も優しいからみんなが褒めてくれるに決まっている。無理だ無理。恥ずかしくて死ぬ。
すると、宗三がため息を吐いた。
「はぁ・・・行けばいいんじゃないですか?せっかく僕が綺麗にしてあげたんですから」
「・・・私も宗三に同意です。皆、喜ぶと思いますよ」
「よ、喜ぶ?」
「はい・・・とても素敵ですから」
「・・・江雪兄さん。あまりこの人を調子に乗らせないでください」
「調子になんか乗ってませんー!!よし!もう、こうなったら行こうぜ小夜ちゃん!」
今度は逆に私が小夜ちゃんの手を引っ張って廊下へ出る。あ、大事なこと忘れてた!
私は再度部屋へ顔を出した。
「宗三、ありがとう!簪はあとで返すね!」
お礼を言うと、宗三はとても綺麗に微笑んだ。う〜〜〜ん!これ国が傾くやつ。
「簪は返していただかなくて結構です。よくお似合いなあなたにさしあげます」2017.9.3