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【※主は荷物じゃありません】



「あるじさま〜!あるじさま〜!」
「わーっはっはっは!主よ、朝だぞ!!」
「・・・・・・そうだね、朝だね」

朝は朝でも五時だけどな!!
元気な早起き二人組、今剣と岩融の大声に、まだまだ覚醒状態ではない頭で私はなんとか応答する。

つか、返事するとかそれ以前に人の部屋の障子開けるってどうなんですかねぇ・・・
ここの七割ぐらいがばかすか開けるぞ。と言っても、みんな悪気が無いから許しちゃうんだけどさあ。

「それで、二人は朝からどうしたの?」
「すごいんですよ!」
「うん、ごめん。なにがすごいのかな?」
「いけがすごいんです!」
「・・・うん、どんな風に??」
「それはみてからのおたのしみです!」
「うむ!今剣の言う通り!主、百聞は一見に如かずというやつだ!!」

そう言うと、岩融はいとも簡単に私を脇に抱えた。待て待て待て。私は荷物じゃないぞ。

「岩融。いきなり主を抱えるってどうかと思うよ私」
「抱えたぞ、主!」
「いや、言えば良いってもんじゃなくて。しかも事後報告って」
「さぁ、岩融!はやくいきましょう!!」
「おうとも!!」
「ああああああ視界が揺れるううううう」





「ほら、あるじさまみてください!」
「ちょ、ちょっとタンマ・・・あ、頭が・・・・・・」

私の腕をぐいぐい引っ張る今剣に待ったをかけて、ぐわんぐわん揺れる頭が落ち着くのを待つ。
うおぉ・・・朝ご飯食べる前に吐きそうだ。

「すまんな。次からは気を付けよう」
「・・・次からは普通に歩かせてくれればいいから」
「それもそうか!がっはっはっは!!」
「あるじさま、あるじさま!!」

「はいはいっと―――あれ、鯉?」

今剣に急かされて池を覗いてみれば、そこには昨日まではいなかったはずの鯉の姿があった。

「え。昨日まではいなかったよね?」
「そうなんです。だから、いちはやくあるじさまにつたえたくて」
「今剣が急かしてしょうがなくてな」
「むぅ!岩融だってそうだったじゃないですか!」

頬を膨らましてぷんすこする今剣と、それを笑って軽くあしらっている岩融を見ながら、
私は昨日のことを思い出す。

『いけに"こい"がいたらはなやかでしょうねぇ』

一緒に庭を散歩していた今剣が、ふと池を見てそう呟いたのだった。
そして私もそれに「そうだねぇ」なんて頷いて。鯉かぁ、いいなぁと思いつつこうして朝を迎えたのだ。

「―――あ。でも前にもこういうことあったなぁ」
「そうなんですか?」
「うん。前に歌仙が『藤棚があったら雅だろうねぇ』って言った次の日に庭に見事な藤棚がね」

私は池から少し離れた所に見える藤棚を指差す。

「ほぉ、あの藤棚か」
「その他にも色々増えたりしてね。確か、こんのすけが言うにはここは私の本丸だから私が望めば
大抵の物は揃ったりするらしいよ」
「さすがあるじさまですね!」
「無自覚なんだけどねぇ」
「では、部屋が増えるのも主の力なのか?」
「いや。それについてはなんとも・・・知らない間にどんどん拡張されていっててさぁ」
「でも、ぼうけんのしがいがあります!」
「俺のように図体のデカイ刀も多いし、広いに越したことはないな!」
「私は迷うからマジ勘弁」





「あるじさま、ありがとうございます」
「ん?」
「"こい"です。ぼくがいったから、」
「うーん・・・私が自覚してやったわけでもないし。
それに今剣の言葉を聞いて、私も鯉がいたらいいなぁって思ったんだし」

「だから、お礼を言われることじゃないよ」と、今剣の頭をぽんぽん撫でる。
と、彼はきょとんとしたあとに、照れくさそうに笑った。おっと、天使かな?

すると、今剣の頭を撫でている私の頭を、岩融がその大きな手で撫でてきた。

「しかし、やはり主あってのこの鯉であろう。俺からも礼を言う」
「あー・・・うん、どういたしまして」

クッソ、こうも面と向かってお礼を言われると恥ずかしいな・・・
じとっと岩融を見上げると、満面の笑顔を返されてしまった。ちくせう!

「あるじさま。やっぱり、きちんとおれいをいわせてください」

今剣の赤い、大きな目が私を捉える。

「―――すてきな"こい"をありがとうございます」

「・・・どういたしまして」
「おや、主。あの鯉のように顔が真っ赤だぞ?」
「あー!あー!お腹空いたから朝ご飯食べに行こうっと!!!!」
「岩融。あるじさまは"てれや"なんですから、からかったらいけませんよ!」
「あぁ、そうであったな!すまん、すまん」
「ほら、行くよ!二人とも!」



2016.3.3