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【つれてかないで】



夜中に目が覚めた私は、喉の渇きを感じて厨に行った。
一杯水を飲んで、歌仙にはしたないと注意されそうな大きな口で欠伸をしながら廊下を歩いていると、庭に鶴丸を見つけた。

一人静かに佇んで空を見上げている彼は、どうやらお月見をしているようだ。
今夜は満月で、真ん丸い綺麗なお月様が浮かんでいた。
吐く息も白いし、震えるほど寒い夜だけども、お月見をしたい気持ちが分かる。

邪魔しちゃ悪いかなとも思ったが、素通りするのもなんだし、私は鶴丸に声をかけようとした。
けれど、開きかけた唇から彼の名前が出ることはなかった。

―――月光の下、月を見上げる鶴丸の姿に、酷く、どうしようもない焦燥が込み上げて来たからだ。
真っ白い鶴丸が、月の白い光に溶けて消えてしまいそうで。心がざわついた。

そして、気付いたら私は庭に駆け下り、引き止めるように、後ろから彼に抱き付いていた。

「―――おっと、どうした主?いつものお返しに俺を驚かしに・・・ってわけじゃあなさそうだな。どうした?」
「・・・・・・鶴丸が、どっか行っちゃいそうだったから、」
「おいおい。君になにも言わずにどっかに行くほど、礼儀知らずじゃあないぜ。俺は」
「違う、そうじゃなくて・・・鶴丸が連れて行かれちゃいそうで・・・・・・」
「連れて行かれる?誰にだ??」

「月に、連れて行かれちゃいそうで」

「・・・ははっ、こりゃまた主も風情あることを言うんだなと言いたいところだが・・・・・・」

そこで鶴丸は、私が腰に回していた腕を優しく解き、向かい合って私を見下ろす。
きっと、不安そうな表情を浮かべている私を安心させるように、彼は肩に手を置いて微笑んだ。

「大丈夫だ。俺はどこにも行きやしないさ」
「・・・ほんと?」
「あぁ、男に二言は無いぜ。・・・むしろ、俺からしたら君の方が俺を置いてどっか行ってしまいそうだ」
「私だって勝手にどっか行ったりはしないよ」
「―――"君自身の意思"はそうだろうな、」

なんだその含みを持った言い方はと思ったけれど、言葉に出来なかった。
そう言った鶴丸が、痛々しい苦笑のような笑みをしていたからだ。でも、それもほんの一瞬で消えた。

「さて。冷えるしそろそろ中へ戻ろう。なにより君は裸足だしな」
「げ!そうだった!冷たい!痛い!!」

無我夢中だったのか、今になって自分が裸足で庭に降りていたことを思い出した。
砂利がクッソ痛い。誰だこんな庭にしたの!・・・はい、私です。

「・・・ははは、そんだけ俺を想ってくれたって自惚れても構わないよな」
「え?鶴丸なんか言った?」
「いいや、ただの独り言だぜ・・・っと、」
「え、ちょ、なにしてんじゃ!」

なんと、あろうことか鶴丸は私を横抱きに持ち上げたではないか。あわわ・・・鶴丸が折れてしまう!

「主を裸足で歩かせるわけにはいかないからな」
「だ、大丈夫だって!それより重いでしょっ?そのほっそい腕が折れちゃう!!」
「あのなぁ、俺だって一応、男なんだぜ?君一人ぐらい軽いもんさ。それよか捕まってないと落っこちるぜ??」
「そ、それは嫌だ・・・!!主命だ・・・!落とさないで・・・!!」
「ははっ、了解。・・・なぁ、主」
「ん?」

「もしも俺が、誰かに連れてかれそうになったら―――さっきみたいに引き止めてくれるか?」

いつになく真剣な表情の鶴丸に少し言葉が詰まったが、私は大きく頷いた。

「当たり前じゃん。鶴丸の意思にもよるけど・・・無理矢理連れて行かれそうだったら、
しがみ付いて絶対に離さないよ」
「・・・・・・そうか、ありがとう。俺は幸せ者だなあ」

鶴丸は白い頬をほんのり染めて、嬉しそうに笑った。
私はそれに、嘘じゃないよと念を押すようにぎゅっと彼にしがみ付いたのだった。



2016.2.28