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【膝がガクガクする】



「あ、」
「なんだ?主」
「いや。膝丸、犬歯あるんだなあって」

お茶請けの練り切りを食べようと口を開けた膝丸の歯を、私はじっと見る。
二本の尖った犬歯。なんだか意外だなと思った。小狐丸は野生(自称)だし、名前通りだし特に驚かないけど、
真面目でちょっと天然入ってる膝丸だとちょっと予想外。でも、戦場での姿を見るとそうでもないのかな。

「・・・珍しいものなのか?」
「ううん。膝丸って穏やかな方だから意外だなあって思っただけ」
「主には・・・無いな」

今度は膝丸が練り切りを食べようと口を開けた私の歯に注目する。
うっ・・・その小綺麗な顔で見られると心が痛い。なんて私の思いも知らず、膝丸はやんわりと微笑んだ。

「―――しかし綺麗な歯並びをしている」

「そ、そうかな?ありがとう・・・」

むず痒くて私はやや俯く。ぶっちゃけこれほど歯磨きを欠かさないで良かったと思う日もあるまい。

「膝丸の犬歯も格好良くて素敵だよ」
「格好良い・・・?主は不思議な感性を持っているんだな」
「あはは。よく言われる」





「―――そういえば、本丸には慣れた?」
「あぁ。皆、良くしてくれるし、兄者もいるしな。良い場所だ」
「そっか、良かった!」
「・・・こうしてまた兄者と一緒にいられるのも主のおかげだ。改めて礼を言う、ありがとう」

膝丸は正座をするとそう言って私に頭を下げた。どこまで真面目なんだ!

「そういうのいいから!頭上げて!私なんて何にもしてないし、お礼言うんだったら歌仙達にお願いします!!」
「・・・ははは」
「え、な、なに?」

私は何か笑えることを言っただろうかと、急に笑い出した膝丸を不思議に思って見る。

「いや。歌仙達も『礼なら主に』と言っていたもので、ついな」
「!お、おのれ之定め・・・!!」
「照れ屋だとも言っていたな」
「うぅ・・・!!見るな!そんな目で見るなぁ・・・!」
「耳まで真っ赤だ」
「・・・・・・意地悪!」
「はは、すまない。からかい過ぎた。どうかこっちを向いてくれないか、主。顔を見て話しがしたい」
「これ以上からかわれたら膝丸の名前を忘れるとこだったよ」
「そ、それは止めてくれ・・・」

ちょっと仕返ししてみると、膝丸は顔を青くさせて狼狽えた。兄者、弟の名前ぐらい覚えようね・・・
私は気の毒になって彼の背中をぽんぽん叩く。しばらくして、膝丸が仕切り直すようにごほんと咳をした。

「―――主、今一度挨拶をさせてくれ」

膝丸はさっきと同じく正座をして私と向き合う。

「皆と主が互いを思い合っているのがよく分かった。この膝丸。君に誠心誠意、仕えよう―――」

そう、深々とお辞儀をした膝丸に習い、私もきちんと正座をして頭を下げる。

「こちらこそよろしくお願いします。本丸にようこそ、膝丸」



2016.1.10