【"待たせたり"しないけど、私は幾らでも"待つ"よ】
最近、長谷部の元気がない。
"明らかに"というわけではないのだが、傍目に見ていつも通りの社畜っぷりでもどこか様子が違う。
なんだかイライラしているのだ。雰囲気もピリピリしてる。
そして長谷部がそんな様子になり始めたのは―――日本号が来てからである。
このつい最近やって来た酔っ払いは大分不真面目だ。
が、そこが超が付くほど真面目な長谷部と反発するかと思えばそれほどでもなく、問題はもっと
根本的なところのようである。
実は明石とかいう関西眼鏡が来た時も、あまりのぐうたらっぷりに長谷部が始終半ギレであったが、
今のような感じではなかった。イライラとしてはいたけれど、余裕があった。
・・・たぶん、色々と込み入った事情があるんだと思う。私が歴史に明るくないから勘なんだけど。
うーん・・・もっと真面目に勉強しておくんだった。
―――とにかく、このままの状態の長谷部を放って置くことは出来ないので。
「長谷部!私と一緒に出かけよう!」と、帳簿と睨めっこしていた長谷部に私は身を乗り出して言う。家計簿付けてるお母さんかな?
すると、案の定長谷部は「ですが・・・」とごにょごにょ言葉を濁し始めた。
しかし、私とてここで引かない。奥の手を行使する。
「・・・・・・じゃあ、私と仕事どっちが大事?」
「もちろん主です!」
「だよね!そんじゃ、出かける準備するよ〜」
間髪入れずに返事をした長谷部は、しまったという表情をしていたものの、時既に時間切れ。
私は急かすように長谷部の背を押すのだった。
―――そんで長谷部と一緒に買い物に来たはいいんだけど・・・いかんせん、
イライラの原因を聞きあぐねている内に買い物は終わり、すっかり帰路だ。私のバカ!コミュ障!
ってか、第一聞きずらいし、どういって切り出したらいいのさ。
考えもしないで実行に出たの?って話しだが、すいませんそうです。
しかし本丸じゃ長谷部は中々本音を言ってくれないだろうし、早く言わないと。私は件の彼をちらりと見る。
と、偶然目が合った長谷部はにこりと微笑んだ。へしかわ。
・・・いやいやそんなこと思ってる場合じゃないぞ。私は腹を括って切り出すことにした。
「長谷部。あのさ―――最近、元気?」
・・・なにやってるんだ私ー!なんの為に意を決したんだー!長谷部もきょとんとしている。
当たり前だ。毎日顔を合わせているのに元気もなにも無い。久し振りに会った友達じゃないんだから。
「主のお陰でつつがなく・・・」
「・・・ほんと?最近ピリピリしてるけど」
「!」
うお。顔強張った。
「もうさ、単刀直入に聞くけど・・・日本号となんかあった?」
「・・・いえ、別に主が気になさるほどのことではありません」
「ねぇ、私それ嫌い。お前には関係ないって線引かれてるみたいでさ」
「申し訳ありません・・・ですが、そのような意味では決してなく―――」
「ただこれは俺自身の問題なんです、」「・・・・・・そっか。じゃあ、自分でなんとかする?」
「はい。してみせます」
「長谷部がそう言うんなら大丈夫だね、うん」
「そしたら私待ってるよ」と言えば、長谷場は大きく目を見開いてから、深くしっかりと頷いたのだった。
2016.1.3