【おにぎり、おにぎる】
「・・・おや、お早う主。今日は随分と早起きなんだね」「・・・おはよ歌仙。なんか目が覚めちゃってさぁ。歌仙は朝食の準備?」
「いや。その前に遠征に行くみんなのおにぎりをね」
「おにぎり・・・・・・私もおにぎる!」
「また変な言葉を使って・・・で?おにぎりを作った経験は?」
「片手が余る程度!」
「ほとんどないってことだね、分かったよ。・・・まぁ、まずは顔を洗ってその跳ねた髪と身なりを整えておいで」
「はーい」
「よーし!頑張っておにぎるぞー!」
「やけに意欲があるね」
「―――うん。私がみんなにしてあげられることって少ないからさ。こういうことでも少しずつ出来たらなぁって・・・思った次第」
なんて、この頃思うことを口に出したはいいけど・・・やばい、すっごい恥ずかしい。
なんでもいいから早くなんか言えよ文系と、歌仙をちらっと見てみると、例のあのとろけそうな笑みを浮かべていた。
だからそれ。ほんとダメだって。
そしてその表情のまんま、歌仙はゆっくりと唇を動かす。あ、これダメなやつだ。絶対、恥ずかしいこと言う。
「なにもだなんて、そんなことはないよ。僕は、君が主だってだけで充分さ。他の者もそう思っているよ、きっと」
「・・・私はそれだけじゃ充分じゃない、」
「あぁ、本当に君は―――いや。もう止めておこうか、ふふふ」
「そんなことよりおにぎり、おにぎり!って、熱っ!米熱っ!!」
雅な笑みを浮かべている歌仙は放っておいて、おにぎりを作ろうとお米に手を伸ばしたら予想以上に熱くてつい声を上げる。
アツゥイ!なんで歌仙は平気なの・・・?これも文系の力・・・??
ふーふーと手に息を吹きかけて冷ましていると歌仙はくすくす笑った。
「どうやら主には熱過ぎたようだね」
「うぅー・・・歌仙は熱くないの?」
「君ほどじゃないよ。恐らく手の皮が薄いんじゃないかい?」
「む。なんか情けない」
「なんで君はそう妙なとこで卑屈になるんだい。とにかく、少し冷めるまで待っていなさい」
「うん。じゃあ、その間に歌仙の手付きを見て勉強する」
「あぁ、良い心構えだね」
「・・・お、もう大丈夫な感じ!・・・・・・・・・き、綺麗に握れねぇ・・・!!」
「強く握るんじゃなくて、形を整えるつもりでやってごらん」
「わー、歌仙上手!・・・っと、こんな感じ?」
「おや。呑み込みが早いようだね」
「出来た!私のおにぎり第一号!いい感じじゃない?」
「まぁ、及第点といったとこかな」
「厳しい。けど、めげないぜ」
「うん。精進したまえ」
「あれ?私が握ったのと歌仙の握ったの大きさ違う、ね・・・」
「そりゃ、僕の手と主の手とじゃ大きさが違うからねぇ」
「この大きさじゃみんな物足りないよね・・・?ってか、これじゃ私が握ったって一目瞭然じゃん!」
「大きさ云々の前に形で一目瞭然さ」
「不格好なおにぎりで悪ぅございましたー!」
思わずぶすぅっと剥れると、歌仙は「悪かったよ」と苦笑しながら謝る。
まぁ、私も本気で不快な気分になったわけじゃない。
歌仙の小言はちくちく刺す感じじゃなくて、軽く小突いてじゃれるような感じなのだ。
付き合いが長いから分かる。
「―――まぁ、見た目がどうであれ、君が握ってくれたと知ればみんな喜ぶよ」
「くれる、かなぁ?」
「主が頑張っていたのを僕は知っているからね。文句を言う輩がいたら、その時は僕が黙らせよう」
「・・・それは和睦だよね?」
「文系と言えど、時には力も必要さ」
「文系とは」
「そういえば遠征行くのは、一期と、ごこたんと、あっくんと、江雪と、小夜ちゃんと、宗三か・・・宗三かぁ・・・・・・」
他のメンバーはこの不格好なおにぎりでもオブラートに包んでくれるだろうが、宗三はハッキリと
「・・・これはまた変わったおにぎりですね」とか鼻で笑いそうな感じだ。ありがとうございます。
いやいや、そんなこと言ってる場合じゃない。別にハッキリ言ってくれてもいいんだけどね。
・・・ただ、がっかりはさせたくないだけなんだよ。
「なにも気にすることはないじゃないか。宗三だって喜ぶはずさ」
「え?宗三が??私のおにぎりに喜ぶ・・・????想像出来ない・・・」
「ははは。まぁ、彼はいまいち素直になれないみたいだからね」
「―――あれ。声がすると思ったらやっぱり主だったんだね」
「みっちゃん!おはよー!」
「おはよう。お寝坊さんな主がここにいるなんて珍しいね。お手伝いかい?」
「お手伝い・・・って言ってもいいの歌仙?」
「なにを遠慮しているんだい?充分、手伝ってくれただろう」
「そっか!うん!お手伝いでおにぎり握った!見て見て、あ!やっぱり見ないで!!」
「ごめん。もう見ちゃった」
「きゃー!恥ずかしい!!」
「恥ずかしがることないじゃないか。僕、こんなに可愛いおにぎり初めて見たよ」
「んんんんんんん光忠ぁ〜〜〜!」
思わず感極まって光忠の胸に飛び込む。しっかりとした胸板がお出迎えしてくれて、逞しい腕も私を支えてくれた。
ママ・・・!!
「はは、役得だねぇ」
「・・・あまり甘やかしてはいけないよ、光忠」
「う〜ん・・・そうは言っても、どうしても主には甘くなっちゃうんだよねぇ」
「あれ。歌仙だって結構、私のこと甘やかしてるよね?」「・・・」
「え。どうした之定」
「あはは。主のずるいとこが出た」
笑うみっちゃんに首を傾げるも、彼は「ま、そこがまた主の良い所だよ」と私の頭を撫でる。
歌仙は黙っちゃって、ちょっと眉間にシワ寄せてるし。いったいなんなのさ。・・・ん?もしかして、
「もしかして自覚無かったの、いへっ(痛っ)」
「歌仙くんも存外、照れ屋だよね」
「光忠・・・」
―――そのあと、遠征から帰って来た宗三に「おにぎり、美味しかったですよ」と素直に言われ、
感激して泣いてしまったのは別のお話し。
2015.11.24