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卵色も添えてちょうだいね


炊事仲間としてもう随分と長いことやってきた歌仙と、他愛のない会話をしながら
光忠は食器を洗う。皆、いつも残さず綺麗に食べてくれるので片付けが楽だ。

「主はいつも美味しい美味しいって言って食べてくれるよねぇ」

主の茶碗を手に取り、「今日も美味かったぞ!ご馳走さん!」と言ってくれた彼女を
光忠は思い出す。いつもたからは、食事を終えたあとに必ず、"美味かった"
"ありがとう"と労ってくれるのだ。作った者にすれば最高の褒め言葉だ。
実に作りがいがある。

「そうだね。・・・気持ちを素直に伝えられるのは彼女の美点の一つだ」

歌仙は皿を拭いて笑う。―――"美点の一つね"と、彼の言葉に光忠は小さく口を孤にする。

普段歌仙は、たからを褒めるというよりは窘めている方が多い。
しかしまぁ、本当に軽い注意のようなもので。なんだかんだ口では言いつつも、
彼もどこかで許容している節がある。きっと、この本丸内でもっとも主と付き合いが
長いのと、自分の主なのだから当然という気持ちからもあるだろう。

時折、歌仙はこうして彼女を褒めることがある。
そしてその時の彼は決まって、いつもよりずっと穏やかで柔らかい表情をする。
それを見ると、やはり歌仙も主を誇りに思っているのだなと光忠は微笑ましくなるのだった。

「でも、最初はみんなと同じくらいたくさん食べるから驚いたなぁ・・・」

光忠は今日もご飯をおかわりしたたからを思い返して苦笑する。
ほっそりとしていてそんなに食べる様には見えないのに、周りの刀剣男子達に
負けないぐらいの量を彼女は食べるのだ。

「花より団子な人なのかな」

朝、昼、晩の食事はもちろん、食べるということに関してたからはとても喜ぶのである。
けれど、彼女自身花のように美しい人だから、道端に咲いている花になど興味が無いのも
なんとなく納得出来てしまう。

「―――いや、少し違うね」

歌仙の言葉に光忠は視線を向ける。彼は拭いている箸に目を落としたまま口を動かす。

「美味しい物を食べるのも好きなのはもちろんだけれど、なにより主は
誰かと食事をするのが好きなんだよ」

「現世では誰かと食事をしたことがなかったそうだ」と歌仙は目を伏せた。

意外な主の話しに光忠はきゅっと唇を閉じる。
たまに聞くたから自身の話しは、朗らかな彼女とは真逆の陰鬱としたものが目立つ。
その圧倒的な違いに、毎回どういう対応したらいいか分からなくなってしまう。

けれどそれを聞いて、"食事は必ず全員で"と基本自由なこの本丸の数少ない決まりごとの
意味がはっきりした。たからは一人でする食事の寂しさ、味気なさを誰より知っているのだ。

光忠は罪悪感を感じて俯く。

「ごめん、僕・・・」
「なに、謝ることはないさ。―――それより、初めて主と食事をした時のはしゃぎようと
きたらね、」

くつくつと、歌仙は口元に手をやって笑う。
よっぽどだったのか、それはもう楽しそうな表情だ。光忠もそれに釣られて微笑む。

「なになに、気になるなぁ」
「ふふっ、もう仕切りに―――それも一口食べるごとに美味い美味いと言ってばかりでね。
・・・内に来た最初の短刀が秋田だったんだが、あの子の方が至って落ち着いていて
妙な感じだったよ」
「あはは!でも、なんというか主らしいね。うん」

短刀達と毎日のごとく一緒に遊ぶたからにもう大分見慣れてしまったから違和感は覚えない。
物言いや佇まいは大人そのものなのだが、中身や笑顔は子どもそのものなのだ主は。
審神者として、主として格好良い時もあり、女性の美しさ、少女を思わせる可愛らしさも
時に垣間見る。様々な姿に変わるたからはまるで万華鏡だ。覗き込まずにはいられない。

「あぁ、そうだね。彼女らしいよ」

歌仙はいつもよりずっと優しい声音でそう言い、そしてとびきりの笑みを作る。
―――彼女という万華鏡を最初から覗き込んでいたのは他でもない目の前の彼で、
光忠はそれがどうしようもなく妬けてしまうのだった。
格好悪いだろうかと思ったがしょうがない。自分とて万華鏡を見たいのだ。

夜食でも持って行って抜け駆けしてしまおうか。

たからは頻繁に、腹が空いたと夜中炊事場に現れる。
それぐらいは構わないはずだ。さて、おにぎりの具はなにがいいかなと、
光忠は残っている食材を頭に浮かべ始めた。



2015.8.4