×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -

未来の色はきっと青緑


主と歌仙にお茶とお茶請けを持っていってくれと燭台切光忠に頼まれた小夜は、
盆を持って主の部屋を目指す。一緒にお茶もしておいでと言われ、盆の上には小夜の分も
入った三人分が乗っている。

頼まれた時はなんで自分がと思ったが、たまたまふらっと炊事場に顔を出した小夜が
目に留まっただけなのだろう。それに、別段嫌でもなかった。
歌仙は元より、主のことは嫌いじゃない。大人しそうな見た目に反して豪快で始終
うるさい人ではあるが、自然と疎ましくは感じなかった。

いまいち距離感を図りあぐねている自分に対し、適度な距離を保って接してくれるのも
一つの要因でもある。他の短刀達のような接し方を受け入れるのは、小夜にはまだ
難しかった。

「おや、小夜。―――あぁ、お茶を持ってきてくれたんだね。ありがとう」

小夜の姿を捉えた歌仙が微笑む。縁側に正座をしている彼は、今日も本丸の庭を眺めて
和歌を詠んでいたようだ。

「主は・・・寝てるみたいだね」

盆を置いた小夜は、歌仙の隣から覗き込む。彼の膝を枕にして寝そべっている
たからの瞼は下がっている。
普段うるさい彼女も、寝ている時だけは静かだ。しかし歌仙は首を横に振った。

「いや、起きてるよ。狸寝入りさ」

「主、そろそろその下手な芝居は止めたらどうだい?」と、彼はたからに言う。
すると、彼女はぱちりと目を開けた。

「バレてたか」
「バレバレさ」
「だが、小夜には通用したようだぞ。なぁ、小夜?」

起き上がったたからは、歌仙越しに小夜を覗き見た。
少しにやついたその顔は驚きが生きがいの鶴丸に似ていた。
明るい表情が眩しくて、視線を逸らしつつも小夜は頷く。
たからは満足そうな笑みを浮かべた。

「さぁ、主。小夜がお茶を持ってきてくれたから一服しようじゃないか」

歌仙が彼女の分のお茶とお茶請けを手渡す。

「おぉ、そうか。ありがとう。ご馳走になるよ。・・・お、今日は羊羹か!」

きらりと目を輝かせ、たからは羊羹を見つめる。その姿は子どもさながらだ。
美味しそうな羊羹だが、そこまで喜べる感覚が小夜には分からない。
やはりこれが人と刀の違いなのだろうか。
そう思いながら主を見ていると、視線がぶつかった。

「あぁ、小夜。そんな隅っこにいないで真ん中においで」

たからは自分と歌仙の間の床をぽんぽんと叩く。小夜は体を固くした。

「え、いや・・・ここでいい、」

華やかな二人の間に座るなんて、なんだか居心地が悪い。小夜は小さく拒否するが、

「照れなくてもいいぞ!」

と、勝手な解釈をされてしまい口を閉ざす。我が強い方ではないのでこれ以上
言い出しにくい。困り果てて歌仙を見れば、彼はにこりとただ穏やかに笑うだけであった。
―――助け舟は望めないようだ。

それどころか、更にたからが困ったことを言い出す。

「なんだったら私の膝の上でも構わんぞ!」

むしろ来いと言わんばかりに、にこにこ顔で膝を叩く主。
流石にそれは恥ずかしくてかなわない。小夜は素直にたからと歌仙の間に移動した。

「はっはっは!フラれてしまったか」

そう笑いながらたからは羊羹を口へ放り、「うん、美味い」と嬉しそうに咀嚼する。
小夜もそれに習って羊羹を口にする。隣の歌仙が言う"上品な甘さ"というものは
分からないが、甘くて美味しい。

「美味しいか?小夜」
「・・・うん」

たからの問いに頷くと、頭を撫でられた。
嬉しいやら恥ずかしいやらで小夜は伏し目がちになる。

―――主と歌仙の会話を真ん中で聞いて、時々話しを振られたりして時間が過ぎていく。
宗三ともこうして並んでお茶をするが、こんなに口数が多いのは新鮮だ。
もちろん、彼とのぽつりぽつりと言葉を交わしながらのお茶も好きだ。

いつも空いている隣りが埋まればどうなるのだろう。

小夜はふと、まだこの本丸にはいないもう一人の兄のことを想った。
彼が来たならば、こんな風に二人の間でお茶をしてみたいなと、いつかの未来に
期待を寄せた。



2015.8.1