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古代紫に想いを馳せる


広く、見事に整理された美しい庭を歌仙は辺りを見回しながら歩く。
この庭を散歩するのは楽しい。
―――がしかし、こんなに忙しく歩を進めるのは穏やかじゃない。実に雅ではない。

でも歌仙とて好きでしているわけではないのだ。執務室でもある自身の部屋から忽然と
姿を消した主を探しての行為である。
決して常日頃から怠慢な人じゃないのだが、たまにこうしてふらっと何処かへ
出歩いてしまうことがあった。
放って置いてもその内帰ってくると思うが、歌仙は決して今までそうした時はない。

それは何故か。彼女が主だからという言葉に尽きる。
取り分け、初期刀である歌仙は主と共に過ごした日々が長い分その気持ちが強い。
そしてあの頃から自分を近侍から外さない主も、同じ想いなのだと思う。

―――それに聞けば、他の者が彼女の手伝いをしている時は黙っていなくなることは
ないそうだ。狙ってやっているとしか考えられない。
しかし不思議と歌仙は嫌な気分はしなかった。

庭をだいたい散策したあと最終的に辿り着くのは、本丸唯一にして最大の桜の木だ。
歌仙は上を見上げる。そして案の定、木の枝に座って遠くを見つめている探し主が
見つかった。

「主、探したよ」
「お、歌仙か」

誰が来るかなんて分かっていたくせに彼女はなんともわざとらしく言う。

「全く・・・急にいなくなるのは止めてくれと言っているだろう」
「はは、すまない」

こっちは呆れているというのに、主は目を細めて嬉しそうに笑う。
歌仙がこう言えば、彼女はいつだってこの返しだった。
―――もう何度繰り返しただろうか。
しかし繰り返すごとに、着実に、この自分達だけの反復が愛おしくなっていた。

そうして次に主は、

「歌仙、受け止めてくれ」

と、発すると同時に、すっと枝から腰を浮かして落ちて来る。
それを歌仙は苦も無く受け止めた。彼女の重さはあの頃から変わっていない。
香る匂いもあのままだ。

「・・・あまりヒヤヒヤさせないでくれ。怪我でもしたらどうするんだい?」

分かってはいても、やはり言わずにはいれない小言を歌仙は苦笑しながら零す。
だが腕の中の彼女は、それさえも微笑みで聞き入れるのだった。

「でも、お前が受け止めてくれるから怪我なんてしないだろう?」
「―――当たり前さ」

歌仙は自身に満ちた微笑を作る。絶対的な信頼の言葉の前には、
こう断言せずにはいられない。
近侍の返事に満足した主はくすくすと口元に手をやって少女の如く笑う。

「・・・ふふふ。このやり取りも、もう何度目だろうな」
「そう思えるほどに繰り返したのは確かだね」
「だな。この本丸もあの頃と比べて随分と賑やかになって様変わりしたものだが―――」

「変わらないものもあるな」と、主はこてんと歌仙の胸に頭を預けた。
変わらない良さと変わる良さ。変化というものには風情がある。

歌仙はふっと淡く笑み、彼女を抱いたまま歩き出す。

「む。歌仙、私は一人で歩けるぞ?」

その割にはしっかりと歌仙の首に腕を回している。

「また黙っていなくなられては困るからね。丁度いいからこのまま執務室に連れて
行かせて貰うよ」

どうせ歩く気など初めから無い彼女に歌仙は答える。あぁ、これも何度繰り返したことか。

「ははは!あの頃と同じだ、変わらない」

主は、彼女は、たからは、子どものような無垢な笑顔で、はしゃぐようにして笑った。



2015.7.31