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びろうどは嫉妬深く燃ゆる





―――たからという主は、文句の付けようがないほどの佳人である。

加州が顕現して彼女と対面した時は、思わずその容姿に一瞬惚けてしまったほどだ。
顔はもちろん、髪も、四肢でさえも、まるで全て厳選したかのような一級品だった。
こんなにも整った顔を持つ人間が存在していたのかと、面食らったものだ。

『立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花』

なんて言葉が人の世にはあるが、正に彼女が体現している。
誰もがその一挙手一投足に注目する。
故に、一緒に買い物に出かければ人々の目を奪ってならない。

当然、加州は面白くない。主は美しい人だ。
けれど、そう思って眺めていいのは自分だけなのである。

―――などと自分勝手な決め付けをし、たからを不躾に見る輩に「なにジロジロ見てんだよ」
と、彼女と買い物に出て来た加州は、牽制するのに大忙しだ。
そして男だけならまだしも、中性的に整った顔を持つたからは、背丈、それから言動、
服装も相まって、女の視線さえも掻っ攫っていた。もちろん、女だろうが牽制の対象だ。

けれども、そんな加州の努力を打ち壊すかのごとく、たからは彼女を見ながら
黄色い声を出している娘達へ微笑んでみせたではないか。

無表情でも人を惹き付けるその顔。
それがにこりとでも微笑すれば誰だって色めき立つに決まっている。
娘達は甲高い声を上げ、"やれ私に微笑んだ""いいや、私に決まってる"と、
的外れなことを言い合い始める。

―――主がお前らなどを相手にするものか。

と、内心で舌を見せながら悪態をついて、加州はたからの羽織の袖を引いた。

「ちょっと主!その気も無いのにそういうことするの止めてよね!」

加州はむっと眉を寄せ、少し怒りを込めて言う。
しかし、それに対してたからはくすくす楽しそうに笑った。

「ふふふ、すまん」
「ほんとに分かってるの!?もうっ!」

自分を差し置いてそこらの人間の娘に良い顔をするなど。
加州は口をへの字に曲げてそっぽを向いた。

すると、「悪かった。謝るよ、清光」と、たからは柔らかな声音で加州の肩をそっと
抱き寄せる。強引ではないが、どこか有無を言わせない力に、加州の胸がどきりと跳ねた。

それから彼女は耳元に顔を近付けて、

「―――嫉妬するお前が見たくて。つい、な」

そう吹き込むようにして甘美な言葉を囁かれてしまえば、最早なにもかもどうでも
よくなってしまう。いや、熱が集中した頭では碌に思考が働かないのだ。
倒れないように足腰を保っているのがやっとで、それ以外は主でいっぱいなのだ。

加州の視界いっぱいで、素晴らしく優雅な笑みをたたえるたからで
いっぱいいっぱいなのである。



2016.1.18