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砂上のアンティックゴールド


「・・・主には、兄弟はいるのか?」

隣で、足元に寄って来た一匹の雀を眺めている主に長曾根はふと聞いてみる。
縁側でお茶をしていたたからに、たまたま長曾根が遭遇し、お前もどうだと誘われて
共にしていた。

―――自分はまだここに来て日が浅い。本丸での日常に慣れてはきたが、
主である彼女のことについてはほとんど知らなかった。
故に、兄弟のことを聞いたのは、たからを知る一歩であった。

他にも話題はあっただろうが、自分の身近でもあった為ついそれが口に出た。

「あぁ、兄が三人いる」

雀から視線を自分に移した彼女の言葉に、長曾根は少し驚く。

「兄が三人か・・・末っ子なんだな」

しっかりしていると言うべきか、どんな時でも堂々としているたからからは末っ子の
雰囲気は感じられず、むしろ、一番上で弟、もしくは妹をまとめているものだと、
長曾根は勝手ながら思っていた。

「意外そうな顔だな」
「てっきり、弟や妹がいるものだと」
「そう見えるか。あまり言われたことがないから分からん」

彼女は軽く笑って湯呑みに口を付ける。一口啜ったあと、静かに湯呑みを盆の上に
戻した主は、また雀に視線を戻した。長曾根も何とはなしにその雀を見る。
たからの足元で、じゃれるように雀は歩き回っている。

「末っ子で女一人じゃ、さぞ可愛がられたんじゃないか?」

たからを見れば、決して甘やかされて育てられたわけじゃないと分かるが、それなりに
可愛がられたであろう。長曾根の言葉に彼女は一瞬の空白を作り上げてから愉快そうに
笑った。

「・・・ははは!いや、全くだよ。親にも可愛がられたことなどないし、兄達とはまともに
顔を合わせて話したことすらない」

実に楽しそうに話した彼女とその内容の真逆さに、長曾根の唇は微動だにしなかった。
同じ家に生まれてほとんど顔を合わせないなんてことがあるのだろうか。
人の家庭を網羅しているわけではないが、だとしてもそれが、およそ普通とは言えない
ということが分かる。

特殊な家に生まれたのだろうか。すると、「私の家は大分特殊でな、」とたからは同意した。

「一番上との兄とは同じ母親の腹から生まれたが、あとの二人もそれぞれ別々で、
いわゆる腹違いというやつだ」
「・・・複雑なんだな」
「はは、そうともいうな」

たからは他人事のように小さく笑った。

「家はこれまた名家という随分と偉いもので、嫁いで来た母親達は自分の為に子どもを
いかに優秀に育てるかで必死だったよ」

「実に滑稽だった」と、彼女は思い出すかのように瞳を閉じて口角を上げた。
長い睫毛が、肌に影を作った。

「そんなわけだからお互いに隔絶されて育ち、兄弟と言えど興味が無い。
家族と言えど、形だけでよう分からん」

たからは長曾根に顔を向けて、霞のような笑みを見せた。
その、どこかぼやけた形を成せていない微笑みで、長曾根は主について一つ理解した。

―――彼女は、支えておかないと知らない間に崩れる。

足元にいた雀は、いつの間にか飛び去っていた。



2015.9.7