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あなたの為のホライズンブルー


「主さん!髪を結ってもいいですか?」

主の部屋を訪れた堀川は、髪結い道具を両手に彼女に問う。
その姿を目に留めたたからは薄く微笑んだ。

「おや、堀川か。珍しいな。和泉守の方はいいのか?」

まだ結っていない、そのままの濡羽色の髪がさらりと揺れた。
―――彼女が言う珍しいとは、だいたい髪結いさせてくれとやって来るのは清光と乱の
二人だからである。

けれど、この二人も二人で、互いに自分が自分がと、中々譲らないため揉めることが多々で。
清光はあまり我儘を言うなと安定に小突かれたり、乱は主を困らせるなと一期に
窘められたり、時に歌仙に小言を言われたりと、毎度騒がしい。

しかし今日それが起きていないのは、そんな彼らが二人揃って遠征に出ているからだ。
つまり、密かに前から主の髪を結ってみたいと思っていた堀川からしてみれば、
競争相手がいない絶好の機会であった。

そんなわけで、堀川は二人には悪いとちょっぴり思いつつ、彼女のところへやって
来たのである。

「兼さんのは終わらせたので!」

堀川は満面の笑みで答える。和泉守の髪は毎日整えているのだ。忘れるはずがない。
今日も彼の髪は綺麗で、髪型はいつも通り格好よく決まった。

「はは、当たり前か」

「まぁ、和泉守には劣るだろうが、どうぞ」と、たからは柔らかく笑いながら
了承してくれた。

「もう主さんったら、そんな謙遜しなくても充分綺麗ですよ!」

お世辞でも何でもなく、堀川は思ったことを素直に口に出しつつ、彼女の後ろに座る。
すると、香の良い匂いが鼻腔を漂った。嗅いだことのある匂いだ。
―――炊事場でよく仕事を共にする歌仙からも、この匂いを放っているのを思い出す。

さて果て、歌仙が主にそうさせているのか、はたまた彼女が彼にそうさせているのか。
堀川は相変わらずの二人の関係に、小さく口を弧にした。

「それじゃあ、失礼します」

そう断りを入れてから、堀川はたからの髪に手を伸ばす。
そして触れた途端に思わず声が漏れた。

「・・・うわぁ、すっごいサラサラ!」

絡まりなんて全くない、指も櫛でさえもするりするりと流れていく。
それから質感。適度に柔らかい。梳かす度に様々な色合いを見せる光沢は、いつまでも
触っていたくなってしまいそうだ。そりゃ和泉守だって綺麗な髪をしているが、主の髪は
彼とは違った美しさが溢れていた。男性と女性ではこうも髪質というものは違うのだろうか。
これは清光と乱が喧嘩するのも頷ける。

「なにか特別な手入れとかしてるんですか?」
「椿油ぐらいだな」

なるほど、それでこの艶やかさが出ているわけだと堀川は納得する。

「これは兼さんにも・・・」
「逃げ回りそうだ」

たからはふふっと肩を揺らして笑った。堀川も、「そんな女々しいことしてられるか!」と
叫ぶ和泉守の姿が目に浮かび苦笑した。

「兼さんのことを思ってやってるんだけどなあ」

なかなか理解を得られないことが多く、時に遠巻きにされてしまう。

でも、今回は理解を得られるはずだと堀川は自信があった。
こうやって主の髪を整えているのも、自分がしたかったのもあるが和泉守の為でもあるのだ。
長曾根と手合わせ中の彼の励みになればと、主の髪を―――彼と同じ髪型に整えている
ところだ。

「堀川は本当に和泉守が好きなんだな」
「はい!もちろんです!」

堀川は返事をするのと一緒に、たからの毛先の少し手前を和泉守も付けている赤い髪紐で
きゅっと結ぶ。見立て通り、やはり黒髪には赤がよく映えた。

「あ、でも、」

堀川は櫛を畳の上に置き、

「主さんのことだって好きですからね!」

と彼女の肩を掴み、顔を覗き込んで微笑む。和泉守の前では彼がむくれるので言わないが、
主も格好よくて強くて、それから優しくて。とても素敵な人だ。
綺麗な見目に誘われてしまうのもそうだが、それに違わない内面も知ってしまえば、必然的に
目も心も奪われてしまう。

最初はその圧倒的な霊力を持った彼女に、厳しそうな主だと感じたものだったが、
接してみればつまみ食いをするようなこんなにもお茶目な人だった。
自分の主としても胸を張って誇れるほど優秀であるし、そしてなにより和泉守はも
ちろんのこと、自分のこと、他の刀剣男士達のことを良く気遣ってくれる。

―――好きになるのにはそう時間はかからなかった。

「ふふふ、ありがとう。嬉しいぞ」

「私もお前が好きだよ」と、たからは瞳を細めて美しい笑みを作り上げる。
好きな和泉守の姿に近付きずつある彼女のその微笑みに、堀川は照れながら三つ編みを
編み始めた。





そのあと、すっかり和泉守と同じ髪型になった主を彼の所へ連れて行ったのだが、
見た瞬間に照れ隠しの叫び声を上げられてしまい、手合わせ相手の長曾根には
「妬けるなぁ、和泉守よ」とからかわれる始末になってしまったのだった。



2015.8.31