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月白情死


「君は役目が終わったらなにかすることでもあるのかい?」

鶴丸は一緒に縁側でお茶をしている主に尋ねた。

自分は刀剣男士としての役目を終えれば、御物としてあるべき場所に保管されるだけである。
驚きとは無縁になるが致し方無い。

「―――おや、"お前は"私を素直に帰してくれるのか?」

茶を飲んだたからが意外そうな表情を浮かべる。これに鶴丸は苦笑した。
彼女の言葉から察すると、どうやら役目を終えても主を現世に帰す気が無い者がいるらしい。

「おいおい。そんなこと言う奴はどいつだ?」

それだけたからを好いている、いや執着している刀はさて何振りいたかなと鶴丸は
両手を使うが足りない。そんな鶴丸を見ていた彼女はくすりと小さく笑って答えを
教えてくれた。

「はは、小狐丸だ」
「あー・・・小狐丸かぁ」

納得の刀に鶴丸は苦笑を深くした。

「"この小狐丸、そう簡単にはぬしさまを帰しませぬぞ"と、言われてしまってなあ」
「それを笑って言える君に驚きだぜ・・・」
「こんなに熱烈に想われて悪い気はしないからね」

「どこかの鶴は淡泊なようだが」と、たからはにやりと口の端を持ち上げた。
それに鶴丸はむっとして反論する。

「おっと!そいつは違うぜ、主。俺は君が好きだから、あるべき場所に帰るのが
道理だと思ってるだけだ」

―――収まっていた場所から引きずり出される不快感を鶴丸は知っている。
第一に神とは言えど、人の子をどうこうしていい権利は無いはずだ。
神の座に胡坐をかいている狐とは違う。

「それに俺だって結構、好意を伝えてるはずなんだが・・・って、ちょっと待ってくれ」
「ん?」

しれっとした顔で小首を傾げるたからに鶴丸はずいっと近寄る。

「―――君、話しを逸らそうとしているな?」

じっと彼女の両の目を見つめれば、ふっと視線を外された。

「バレたか」
「危うく乗せられるところだったがな!」

「しかし、なんだ?そんなに話したくないことなのか?」と、鶴丸はにやにや笑って
軽くちゃかすように言ってみた。するとたからは無表情で、

「まぁな」

と一言だけ発するものだから、つい鶴丸は彼女との距離を元に戻した。

基本、たからについて知りたかったら、彼女は聞けば答えてくれる。
しかし、例外として答えてくれないこともある。
その大抵は笑いながらやんわりと断られるものだが、今のように無表情での拒絶は、
たからの絶対に踏み入れさせてはくれない領域に触れた際のものだ。
もう、主ともそれなりの付き合いだ。―――これは彼女について知り得る確実なことだった。

たからは無表情からいつも通りの微笑みを作った。

「ただ、お前の質問に答えるとしたら・・・"することがある"」
「でも中身は教えちゃあくれないってことか、」

鶴丸は眉を下げて、縁側に垂らした脚をぶらぶらと揺らす。

「―――しかし、どうせ歌仙は知ってるんだろ?」
「あぁ」

頷く横顔を視界の端に入れながら、鶴丸はお茶請けの三色団子に手を伸ばす。

主の引いた境界など気にしないで跨げるのは近侍の歌仙だけだ。
他は誰も彼女の内の内まで入っていけない。こういう時、彼が羨ましくて仕方がない。
それと同時に思う。

自分が主と出会った最初の刀であればよかったのに、と。

しかし、そんなこと今更嘆いてもなにも始まりはしない。
鶴丸はどうしようもないそれを飲み下すようにして、自分と同じ色の白い団子を頬張った。



2015.8.24