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裏切り者の黄唐茶など


「・・・大倶利伽羅だ。別に語ることはない。慣れ合う気はないからな」

自分を顕現させた目の前の女―――今日から主になるらしい彼女に、大倶利伽羅は
素っ気なく言った。

「ちょっと、大倶利伽羅くん!」
「・・・光忠か」

そんな自己紹介の仕方があるかと、久方振りの彼が咎めるも聞き流す。
困り顔を作った光忠は、主へ苦笑した。

「ごめんね、主。でも、悪い子じゃないから・・・」

余計なお世話だと、大倶利伽羅は思わず舌打ちする。
途端、またそれを光忠に口煩く注意された。

「はっはっは!構わん、光忠」

彼女は大きな声で笑いながら、持っていた扇子を扇いだ。
いかにもか弱そうといった風貌の女に見えたが、そうでもなさそうだ。
笑うと大分印象が違う。

「主・・・」
「うんうん。一匹狼上等!」

「だがな、」と、彼女はぴしゃっと扇子を閉じて大倶利伽羅にその先端を向けた。

「働かざるもの食うべからずだ。仕事はきちんとしてもらうぞ?」

そう片眉を上げて、彼女はにんまりと笑みを浮かべたのだった。





―――そうして彼女は、たからは言った通り、馴れ合いを強要しなかった。
戦闘、遠征、内番といった仕事をこなせば、とやかく言われることもなかった。
むしろうるさいのは光忠であった。どうにも彼はお節介が過ぎる。
自分のことなど放って置けばいいものを。

大倶利伽羅は日の出の光が薄っすらと辺りを照らす中、刀を力強く振るう。
こうして朝早く目覚めることは稀にあり、そんな日は素振りをする。
無心に、ただひたすら刀を振るう。

「―――ほほぉ、流石の太刀筋だ」

不意に聞こえたその声に、はっとして大倶利伽羅は顔を向ける。
いつの間にか、たからが縁側に胡座をかいてこちらを眺めていた。
やって来た気配どころか、居座っていたのにさえ気づかないとは。
常人とは違うと感じてはいたが、審神者という者は皆こうなのだろうか。

そもそもこの場所は滅多に人が来ない本丸の隅だ。だから、大倶利伽羅はあえて選んだのだ。
しかし、わざわざ大倶利伽羅が選んだここに、主もわざわざ、それもこんな朝早くに
足を運んで来た。決して彼女は馴れ合いを強要しないのだが、ごくたまにこうやって
ちょっかいを出してくる。

大倶利伽羅はなにが面白いのかにこにこ笑っている彼女につい舌打ちをした。

「・・・戦わないあんたになにが分かる」
「まぁ、確かにそうなんだがこれでも自分の刀は持っていてな」
「フン・・・持ち腐れだな」
「お前達がいるお陰さ」

目を細めて笑うたからの言葉に、大倶利伽羅は黙り込む。
それこそ彼女の言う通り、ここにいる刀達は誰も持ち腐れの状態に陥っていなかった。
大倶利伽羅とてそうである。内番だけではない、戦場へも充分に出撃の機会を
与えられている。皆、平等であった。

『主はほんとに格好良くて優秀な人だからね』
『肯定せざるを得ないな。しかし、ああも秀でてると油断も隙もあったもんじゃない。
これではなかなか驚きを与えられん!』
『・・・いい加減、鶴丸さんはほどほどにしないと歌仙くんに怒られるよ?』
『"首を差し出せ"ってか?おぉ、怖い怖い!』
『楽しんでいるように見えるのは僕だけかい・・・?』

―――ふと、そんな光忠と鶴丸の会話を思い出す。
二人は最後に会った時より、変わっていた。光忠は前にも増して物柔らかになり、鶴丸も
更に砕けて生き生きとしていた。そしてなにより、主、主とよく目の前の彼女の話しをする。
彼らは簡単に影響され過ぎだ。自分は決して絆されてなるものかと、大倶利伽羅は強く思う。

「けれど、いつか機会があったらお披露目しようじゃあないか」

"いつか"なんて曖昧で、ほとんどが果たされない言葉。
そうでなとくともその"いつか"が叶う日は来ないだろうと、大倶利伽羅はなんとなく感じた。

けれど、叶うも叶うまいも関係の無いことだ。



2015.8.9