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箱を開ければ鴇鼠が飛び出る


この本丸には日々驚きが溢れていて飽きが来ない。
敷地も広大で悪戯も仕掛け放題、そしてそれにかかる者も大勢いる。
―――こんな、鶴丸にぴったりな好条件が他にあるだろうか!

今日も今日とて、本丸の我が同胞達に驚きを提供しようと仕掛けさせてもらった。
だが、幾ら待てどもその成果―――誰かしらの驚愕の声が聞こえてこないではないか。
不審に思った鶴丸は本丸の庭、落とし穴を掘った場所へと足を運んだ。

目印など無いが、そこは自分で仕掛けた驚き。他の者に分からなくとも、鶴丸には
ばっちり分かる。

「・・・ん!?」

遠目から自作の落とし穴の異変に気付き、鶴丸は早足で駆け寄る。

どうしたものか、完璧に偽装を施した渾身の落とし穴の周りは小石で囲まれ、
ご丁寧に"落とし穴、危険!"とまで注意書きが記されているではないか。
これでは誰も引っかからないわけである。

鶴丸は拳を握り締め、ぷるぷると体を震わす。こんなことをする犯人は一人しかいない。
この本丸内で、鶴丸の驚きをことごとく回避するのは―――





「主ぃいいい!!」

鶴丸は主の部屋の障子をスパーンと開け放つ。

「どうした鶴丸」
「はぁ、もっと丁寧に開けられないのかい?」

歌仙の膝を枕にして寝そべっているたからは顔だけこちらへ向け、膝を借している彼は
やれやれと溜め息をつきながら額に手をやる。
歌仙の小言は無視して、鶴丸はずかずかと部屋に入り込み、腰に手を当て二人を見下ろした。

「俺の落とし穴を台無しにしたのは君だな!?」

鶴丸はびしっと主を指差す。あんなことをするのは目の前の彼女だけなのだ。
毎度毎度、たからは鶴丸の悪戯を発見すれば、誰も引っかからないように印を付けてしまう。

歌仙が鶴丸の指に眉根を寄せる。

「指を差すのはよしてくないか」
「よさないな!」
「・・・全く、これだからご老体は」
「失敬な!俺はまだまだ若い!」

鶴丸は胸を張って豪語した。日々驚きを求めて前進する自分は活力に溢れて若々しいに
決まっている。毎日毎日縁側で茶を啜っているだけの、自他共に認めるどこぞの
爺とは違うのだ。

―――と、今はそんな話しをしている場合ではない。

「違う違う、この話しは置いといて・・・主!」

あくびをしているたからに向けて、再度鶴丸は指を差す。

「君はいつも俺の邪魔ばかりじゃあないか!・・・よもや俺のことが嫌いなのか?」
「いいや、好きだぞ」

あっけらかんと言い切った主に、鶴丸は顔を歪める。

「くっ・・・!相変わらずだな・・・!悔しいが俺も君が大好きだ!」

「でも、だったらなぜ俺の驚きを奪うんだ!」と、鶴丸は膝を付いて彼女の
顔を覗き込みながら訴える。歌仙が「離れてくれ」とか言っているが構わない。
たからは鶴丸を真っ直ぐに見つめて微笑んだ。

「そりゃ、お前に驚いて欲しいからさ」

彼女は鶴丸の頬に手を伸ばし、顎先にかけてするりと撫でた。
美しい動作と指先の感触に、思わず目を見開く。
言葉通りに驚かされるとは―――これはまいった。けれどこんな相手は初めてだ。
流石は我が主と言うべきだろうか。

鶴丸はくしゃりと笑ってその手を捕まえ、自分の頬に留める。

「・・・なるほど、こりゃ手強い好敵手だ。だが、俺も負けないぜ」

たからの掌に唇を落として、鶴丸は立ち上がる。
そのまま部屋の外へ歩いて行き、今度は丁寧に障子を閉めながら振り返った。

「いずれ、最高の驚きを君にもたらそう―――」

閉まりきる障子の隙間に、楽しそうな笑みを浮かべたたからがいた。





「いいのかい主?あんな火に油を注ぐようなことを言って・・・」

台風のような驚き好きの鶴丸が去ったあと、歌仙は膝の上に乗っている頭に苦笑する。
気配はもちろん、なにかと察知するのが人並み外れている彼女には今まで通り
被害は無いだろう。この本丸は主の掌の上といっても過言ではない場所である。

「はは!構わん、構わん。楽しみが増えただけだ」

そう笑い、たからは目を閉じて再び寝に入る。歌仙はやれやれと肩を竦めた。
これからは前にも増して、主の周りは驚きで騒がしくなりそうだ。



2015.8.6