×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -
悪夢のアイスジェイド  





ミカサは夢を見た。

そこには幼いミカサがいた。
まだ、今よりも髪が長くて、赤いマフラーを巻いていない、ミカサ。世界の残酷さを知らない無邪気な。

『カナコに会えて嬉しい?』

幼い彼女は、小さく首を傾けて尋ねた。

「もちろん。嬉しくないはずがない」

ミカサはきっぱりと断言する。入団式で佳奈子を見つけたあの感動は、今でも忘れられない。

『そう。・・・・でも、彼女は本当にカナコなの?』
「・・・・なにが言いたいの?」

意味深な言葉にミカサは顔を曇らせた。自分が佳奈子を見間違えるわけがないのだ。

幼いミカサは顎に手をやって、考えるような仕草をした。

『だって、あなたのことを覚えていないし』
「・・・私がカナコを覚えていれば充分。関係ない」
『強がり』
「うるさい」

ミカサは苛立った声を出した。
佳奈子と自分について他人(と言っても自分だが)にとやかく言われるのは酷く腹が立つ。

早く目が覚めないだろうかとミカサは思う。
こんな不愉快な夢、見たことさえも忘れて目覚めたい。佳奈子の「おはよう」という優しい声を聞きたい。

なのに、幼いミカサがそれを許しはしなかった。

『そんな怖い顔をしないで』

ミカサの苛立った声に怯えたのか、幼い彼女は悲しそうに眉を下げた。
お前がそうさせたんじゃないかと、ミカサは思わず舌打ちをする。

さらに怯えるだろうかと思いきや、少女は気味の悪い笑みを浮かべた。
瞬間、ミカサの頭にズキリとあの頭痛が襲う。
目の前の『ミカサ』は、なにか自分の心を掻き乱すようなことを言おうとしている。そんな予感があった。

右手に慣れた重さを感じ、ミカサは目を落とす。いつの間にか剣が握られていた。

『ねぇ、ミカサ』

酷く頭が痛い。

カナコは本当に存在してた?

ミカサは躊躇なく右手を振りかぶった。巨人を討ち取るその刃で、自分を切った。





「・・・サ・・カサ・・・・ミカサっ」

体を揺らす衝撃と、耳に馴染んだ自分を呼ぶ声にミカサは目を開けた。心配そうな佳奈子がミカサを見下ろしている。

「ごめんね。うなされてたから起こしたの」
「カナコ・・・」

ミカサは佳奈子に抱きついた。ぎゅぅっと、彼女の存在を確かめるようにきつく抱きしめる。
柔らかい感触がある、血の流れた証拠の体温を感じる、命の鼓動が聞こえる。
佳奈子は間違いなくここに、ミカサの腕の中にいるのだ。

「ミカサ?」
「・・・・・」

なにも言わないミカサをどう思っただろうか。けれど彼女は、優しい手つきでやんわりとミカサの背を撫でてくれた。
安心する。こんな安心感、きっと他にないだろう。

カナコは本当に存在してた?

当たり前だ。昔の彼女とはこんな風に触れ合えたりしなかったけれど、ミカサ以外には認識出来なかったけれど。

だから、どうした。

そんな些細なことはどうだっていい。だって佳奈子はここにいるのだから。
ミカサは佳奈子の肩口に顔を埋めた。

「・・・・カナコは、ここにいる」

その時、彼女の鼓動が早まったのがミカサには分かった。背中を撫でる手も止まってしまった。
ひゅっと、息を飲む音がした。ミカサは佳奈子の顔を両手で包み、顔を見合わせる。青ざめた顔とさまよう瞳。
その表情はなんだ。ミカサは問いかけた。

「ねぇ、どうしてなにも言ってくれないの?」



2013.11.11