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憎悪を孕むグリーンアベンチュリン  





兵舎前にエレンは一人立っている。
と言ってもエレンは単に突っ立ているわけではなく、両手には土で膨れ上がった土嚢を持ち、
更に背中にはそれが詰まったリュックを背負っているのだ。

けれどこんな苦行を強いられているのはこれがエレンへの懲罰だからである。
なぜ、戒めの罰を与えられているか。エレンが訓練中に同期と揉めて騒ぎを起こしたからだ。

でもその中身は不真面目に訓練を受ける同期に"真面目にやれ"と咎めた正当な行いだった。
・・・そこで終わっていたならば。注意を受けた同期の彼はうんざりした表情に
苦笑も付け加えて、

『お前の気持ちも分かるけどさ、そんな熱くなるなよ』

鎮めようとした言葉が逆に火種になってエレンの体を燃え盛る炎のように熱くさせた。
"お前の気持ち"が意味するのは母親を巨人に食い殺されたことだ。
敵の巨人を倒そうと躍起になるのも分かるが落ち着けとのたまったのである。

───なにが分かるだ。

目の前で無残に残酷に母親が食われるのを見ていることしか出来なかった自分の
この悔しさが、刻印のごとく心に彫られたこの憤りが他人に分かるわけがない!
なにも考えずに放たれた音声のまとまりに自分はおろか母親までもが侮辱されたようで
エレンは我慢がならなかった。

そして気付いた時には彼を殴り倒し、少しだけ晴れた気持ちと共にうずくまる姿を
見下ろしていた。

───良いと言うまでそれを持って立っていろ。
そう教官に言い渡されて現在のエレンの状態が出来ている。

しかし自分が悪いとは露程もエレンは思わなかった。
そもそもが真面目に訓練を受けない同期が悪く、正そうと促したエレンの行いは間違ってない。
誰に言われようがこれは揺るがない。

体現する為にもエレンは毅然として真っすぐ立ち続ける。
と、小さな人影を視界の隅で捉えた。
迫って来たそれが誰か分かるとエレンは眉間に薄くシワを作った。

「なに見てんだよ」
「いや、重そうだなって・・・」

「大丈夫?」と人を気に掛けるのはあまり接したくない佳奈子だった。

「別に・・・大したことねぇ」

早々に立ち去ってくれるのを願ってぶっきらぼうな態度を取る。
そういった態度を気にしない彼女は苦笑した。

「そ。ならよかった」
「・・・馬鹿なヤツだと思ってんだろ」

佳奈子の苦笑が自分を嘲笑っているように感じてエレンは言葉を投げ付けた。
彼女はそのまま苦笑いで首を横に振った。

「そんなことないよ。私だって真面目に取り組まない人ってむかつくしね」

珍しく他人への嫌悪を示した佳奈子は苦笑とはやや違った笑みを浮かべる。
意見が合うとは言いにくい彼女にまさか肯定されるとは思いも寄らず、
エレンの反発的な心緒の先端は欠けてしまった。

「はっ。そうかよ」
「うん。そう」

反抗心が萎え適当な返しをしたエレンに佳奈子は笑顔で頷く。
そして彼女は更に肯定的で穏やかではない言葉を紡ぎ上げた。
満面の笑みなのに目だけはどうしようもなく冷めきっていた。

「憎んでいいの。許すなんて大層なこと、しなくていいんだよ」



2018.11.7