×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -
敗者はエンジェルスキンコーラル  





「あ、エレン。顔に睫毛が付いてるよ」

佳奈子が自身の目尻の辺りをとんとんと指で叩いて知らせる。
エレンはその通りに目尻を擦るが、逆だと言われて更に同じように擦るも
それも駄目だったらしい。

「・・・顔、洗ってくる」
「私が取るよ」

そう彼女の善意に止められて去ろうとしていた体を留まらせる。
佳奈子の腕が顔に伸びて来る。自分より低い彼女が取りやすいようにと屈んだりの
気遣いは特別しない。佳奈子への反発心は大分弱くなったものの未だ根深く健在だ。

こちらを見ているようで見ていない彼女の瞳の中に映る自分を見下ろしながら
エレンは待つ。ふと佳奈子の睫毛が目に入る。細くて、少し短めのそれ。
こんな睫毛をしていたのかと、なぜだかはっとしてしまう。
彼女の方こそ簡単に取れて顔に付きそうなのに分からないものだ。

「はい。取れたよ」

爪の先で弾く感触のあと佳奈子は腕を下ろそうとする。
その腕をエレンは掴む。驚きに目を丸くする彼女と視線が合って、優越感に包まれた。
いつも人より達観している佳奈子より先に行くことは気分が良い。

そしてエレンは流れるように───彼女に口付けをした。
つもりは無かったが接近した身体、顔に触れた指先にどこか熱くくすぐられたのだ。

短い密着のあと繋がった唇と腕を離す。
佳奈子は瞳を下に一、二度彷徨わせてからエレンを見上げた。

「へたくそ」
「はぁ!?」

開口一番の罵倒にエレンは顔をしかめた。プライドを傷つける言葉に赤みもさす。

「エレンのキスは噛み付いてるだけでキスじゃない」
「お前っ・・・!!」
「───キスはね、」

瞬間、あっという間に強い力で胸倉を掴まれて唇を塞がれた。
それからちゅっちゅっと優しく、けれど絶え間なく角度を変えながらの
容赦ないキスの雨が降り注いだ。

たったの数秒だったが、離れた時にはすっかりエレンの息は上がっていた。
頭に酸素が行き届かなくてくらくらする。エレンは熱い息を吐きながら垂れた口元の涎を拭った。

目の前では知らない女性のような顔をした彼女が唇を舐める。

「こうやってするの」



2018.7.22