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ペリドットガールは救いようがありません  





―――気に食わない。

カミラ・ルットマンが佳奈子・齋藤に抱く感情はその一言に尽きた。
とにかく彼女のなにもかもが気に食わない。仕草が、存在が自分を苛々とさせてしょうがない。

今だってカミラの視界で佳奈子は気に障る行動をしていた。
この自習室で何人かに囲まれて、勉強を教えているのだ。―――それのなんと腹立たしいことか!

カミラは舌打ちをこらえつつ、けれど抑えられない苛立ちから、貧乏ゆすりをする。
本来であればその立ち位置は自分こそが相応しいのである。事実、カミラの方が座学の成績は彼女より上だ。
佳奈子も上位の成績だが、カミラは更に上を行く上位中の上位だ。

だから、こちらに頼るのが正解であるのに、彼女を取り囲む人間達の心情がカミラには
まるで分からなかった。座学トップであるアルミン・アルレルトならばまだしも、
なぜよりによって佳奈子なのか。自分を差し置いてあんなふうに求められる佳奈子は、
やはりどこまでも忌々しい。

「おー、今日もすごいなあそこは」
「なかなか近づけねぇよな」
「ふっふっふ・・・俺はこの間カナコお姉さんに教えてもらったぜ!」
「マジか!」
「裏切り者!」
「いい匂いがした・・・」
「変態!」
「死ね!」

―――ふと、耳に入ってきた男子達の会話に、カミラは唇を強く噛む。
お姉さんというのは何故か色々と頼られる彼女の愛称だ。
小人のように小さく、人の顔色を伺っている言動が目立つあの女のどこがお姉さんなのか。
カミラには未来永劫理解出来ないことだ。

しかしもっと理解の出来ないことは、佳奈子がさっきのように男子から噂されることである。
不細工とまでは言わないが、決して異性から言い寄られるような容姿ではないはずなのだ。
可愛らしいなどと表現したって、それはあくまでも可愛"らしい"だけであり、極めてぼんやりとしたもの。
美人、美少女といった決定打がないのだ。彼女はしょせん東洋系の珍しい顔立ちぐらいの普通の容姿である。

その点、カミラは違う。
前下がりのショートボブの髪は寝癖もクセさえも知らないシナモン色のストレート。
猫のような目を思わせる双眸は魅惑的なラズベリーレッド。そしてその上には知的な雰囲気を付け加える眼鏡。
―――自他ともに認める美人だ。好きだ、付き合ってくれと愛を囁かれたことも何度かある。

一般より優れた容姿だ。これは当然のことである。でも、たかがありふれた容姿の持ち主の佳奈子はありえない。
クリスタ・レンズほどの容姿であれば、カミラだって認めざるを得ない。だが、そうじゃない。

ならばどうして、容姿も成績もカミラの方が上のはずなのに皆が佳奈子を持て囃すのか。
相応しい条件は全て自分に揃っているはずなのにと、カミラのむしゃくしゃがまた募る。
なぜ、どうして―――

「・・・カミラ、どうかした?」

心配そうな声にカミラはハっとする。
佳奈子への苛々から目を逸らせば、数人の女子がこちらを伺っていた。
彼女達は"あっちの馬鹿な連中"とは違う、カミラを頼って集まってきた賢い選択をした子達だ。

「ごめんなさい、なんでもないの」

そう、カミラは誰もが見惚れる極上の微笑みを形作る。
すると同性の彼女らでさえも仄かに頬を染め、近くにいた男子も鼻の下を伸ばしながら自分に釘付けになる。

こうやって自分の存在価値を高めてくれる彼女らがだらしない彼らが、カミラは大好きだ。
だからそのお礼に優しくしてもやるし、愛でてもやる。

本当だったらあそこの愚図どもも、こうするべきなのだ。だってこれこそが正しい形なのだから。
なのにどうして、このあるべき形にはならないのか―――

その時ふと、数人の女子がカミラの横を通り過ぎた。

「―――性格が悪いからじゃない?」



2017.1.09