冷え切ったルビー・ヘキサゴナル
息を吸えば肺が凍るような寒さの夜。夜直になったミカサは、白い息を出しながら隣を見た。
「カナコ、寒くはない?」
「うん。大丈夫」
鼻の頭と頬を赤くした佳奈子が頷く。
正直、彼女と夜直の見張り当番になって嬉しかったが、この草木に霜が降りるほどの寒さの中ではそうも言ってられなくなった。
自分は耐えられるが、同期でも一層小柄な佳奈子のことを思うと、心配でならない。
「心配しなくても、寒いのも暑いのも慣れてるから大丈夫だよ」
「こう見えて意外とタフなんだから」と佳奈子は力こぶを作ってみせた。
確かに彼女の言う通り、見た目に反して体力があるのは訓練で分かる。恐らく、耐久力は同期で一番ではないだろうかとミカサは思う。
しかし、それでも懸念は晴れない。
佳奈子の場合、体力があるというよりも、気持ちだけで踏ん張っているように思えるのだ。
エレンも佳奈子も誰かが歯止めをしなくては無茶をし過ぎる。
ミカサがいなくては駄目なのだ。
「・・・分かった。でも、寒くなったら言って」
「うん。・・・・・あ、」
彼女が漏らした声に、ミカサは首を傾けた。
「どうかしたの?」
「強いて言うなら手が寒い」
と眉を下げて言うので、ミカサは佳奈子の右手に触れてみる。・・・その手は思わず引っ込めてしまいそうなほど、冷たかった。
死んでしまうんじゃないかという体温に、ミカサは反射的にぎゅうっと佳奈子の手を握りしめた。
「ミカサはあったかいね」
ゆっくりと白い息を吐いて微笑む佳奈子。
ミカサは、少しでも自分の熱を分けられればと、強く、彼女の小さな手を握った。
「・・・暖かいのはあなたの方」
2013.10.14