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惚気はダイオプテーズさえ喰わない  





涼しげな眼に、さらっとした艶のある黒髪。
―――いつ見ても、ミカサは綺麗だと、ジャンは遠く離れた席の彼女を盗み見る。
出来れば視界だけに彼女だけを収めたいものの、残念ながら憎い恋敵、死に急ぎ野郎も入ってしまう。
ジャンは行き場の無い憤りを硬いパンを咀嚼することによって押し込めた。

これ以上見ていると、この怒りは鈍感なエレンにぶつけることになる。
ジャンは舌打ちしながら視線を外し、食事と向き直った。
と、向かいのマルコの手が止まっているのに気付く。彼は、先ほどジャンが向けていた方へ視線をやっている。
しかし、マルコが見ているのはミカサではない。ジャンはこいつも大分お熱だなと、自分を棚に上げて思った。

マルコが目で追っているのはミカサの隣にいる佳奈子だ。
ジャンには彼女の魅力はいまいち分からないが、マルコは佳奈子の全てが愛おしいようだ。
まぁ、性格の良さは認める。

「・・・おい、マルコ。お熱もほどほどにして飯食えよ」
「あ、あぁっ!」

マルコは顔を赤くして、慌ててパンをかっこむように口へ入れた。
そして彼は、むせそうになりながらも、水でパンを胃へと追いやった。

「―――カナコって、苦手なもの無いのかな・・・」
「はぁ?」

突然のその言葉に、ジャンは怪訝な顔をする。

「いや、この間さ、」

心なしか嬉しそうに話し出すマルコに、ジャンはげんなりとした顔で、仕方なく耳を傾けることにした。





―――それはつい先日の天気の良い日のこと。
マルコはシーツを干している佳奈子と遭遇した。近くにミカサの姿はない。
偶然にも会えたことを喜びながら、マルコは彼女に声をかける。

「やぁ、カナコ」
「あ、マルコ」

佳奈子はシーツをぱんぱんと伸ばして微笑む。
太陽の光もあって、その姿はとても神々しい。

「今日は良い天気だね」
「うん。絶好の洗濯物日和」

天気の話題などありきたりで、気の利いたことも言えないマルコに、佳奈子はまたも眩しい笑みを向けてくれた。
こんな、ちょっとした会話でも、マルコの心臓はどくどくと嬉しい鼓動を立てている。
その度にマルコは、自分は佳奈子が好きなのだなと思う。

「あ、マルコ、ちょっと」
「え?」

彼女が動くなと片手で制するので、マルコは大人しくその場で待機する。
佳奈子はマルコの手前までくると、しゃがみ込んだ。その彼女をマルコが目で追ってみれば、

「・・・トカゲ?」

マルコと佳奈子の間にいるのは、一匹のトカゲであった。

「うん。マルコ踏んじゃいそうだったから」

「もうちょっとでミンチだったかもしれない」と佳奈子は下からにやりと笑う。
発言の内容はともかく、怖がらないのと、佳奈子はこんな風に笑う時もあるのだなと、マルコは新しい発見をした。
そして更に発見することになる。

「あ、噛んだ」

なんと彼女は普通にトカゲに指を伸ばしていて、しかも噛まれているというのに平然であった。
マルコは触ったりは出来ないのだろうなと勝手に思い込んでいた為、目が点となる。

「あはは、離れない」

しかも佳奈子は、指を噛まれたままトカゲを持ち上げて無邪気に笑ったのだった。






「―――ってことがあって、」
「はいはい、そーかよ・・・」

「そんな彼女も、また可愛いんだけど」と、すっかり締りのない顔になっているマルコに、
ジャンは適当に返事をしておく。

―――マルコの思うことは分からないでもない。
佳奈子は小さい。それもかなりだ。加えて、顔つきも童顔気味だ。
だから、それも男は、自然と見た目で「虫や雷が苦手だったりするんだろうな」と、勝手な妄想をする。
そんな期待とは裏腹なことをされれば、そりゃ意外になってしまう。

―――しかし、だからどうした。

なにかと周りが佳奈子を、"みんなのお姉さん"を気にしているが、ジャンは興味など無い。
興味があるのは、そのお姉さんといつも一緒なミカサだ。

ジャンはミカサがいる席へと視線をやった。
けれど、想いを寄せている彼女の姿はもうそこにはなかった。もちろん、マルコの愛しい佳奈子もいない。
なのにマルコは、今度はさっきとはまた別の佳奈子の話しをくっちゃべっている。

ジャンは、やっぱりこいつに話しなんかさせるんじゃなかったと、後悔の溜め息を吐いた。

「はぁ・・・」



2014.8.21