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息を止めてモスオパールを数える  





今日の夜直の見張り当番はライナーとだ。
佳奈子はこの見張り当番が割と好きだ。ここに来る前は仕事のせいで昼夜が逆転していたので夜に眠ることが
なかなか出来ない。例え寝れても仮眠のようなもので熟睡にはいたらない。
毎晩就寝時間になって周りが寝静まった中、一人でぼうっとしているのが佳奈子の日課だ。

だから、見張りであろうともやることがあるのは時間潰しには持って来いなのだ(こんなこと教官の前では言えないが)。
それもライナーのような気が合って、おまけに堅物ではない気さくな相手とならば、雑談しながら朝を迎えられる。

そう今日も思って彼と待ち合わせて見張り台に立っているのだが・・・
佳奈子はランプの淡い光に照らされたライナーの横顔を見る。それはいつも通りの精悍な顔に見えるかもしれないが、
彼の目の下には隈があった。数日前から佳奈子はこの隈に気づいていたが、ここではそう珍しくもないし、
数日経てば無くなるだろうと特に気に留めなかった。ライナーは色白であるし、人より目立つのだろうとも思った。

しかし気に留めなかったそれは消えるどころか濃くなっている。
・・・寝れないのだろうか。佳奈子のような体質もあるだろうが、大体は厳しい訓練の疲れによって夜はぐっすりだ。
前者は恐らく違うだろう。ライナーはそういう体質で夜は眠れない佳奈子を心配したのだ。

何かしてやられることはないだろうか。そんな気持ちから、佳奈子の口はこんな提案を出す。

「ライナー、寝よう」
「は?」

あまりに唐突で突拍子もない佳奈子の言葉に、当然ながらライナーはぽかんとした顔で佳奈子を見た。

「最近寝れてないんでしょ?」

目の下を指差してみると彼は決まりが悪そうに苦笑した。

「―――バレたか」
「見張りは私がしておくからさ、寝なよ」

たまに教官が現れる時もあるが本当に何日かに一回ぐらいだ。少しぐらい寝ていても大丈夫だろう。
・・・今日がその何日かに一回の日で無ければいいが。

「いや、それは、」
「寝ろって」
「ハイ」

少し語調を強くして言えば、ライナーは真顔で頷いた。

今、佳奈子とライナーが立っているこの木で作られた見張り台は、四つの柱に支えられ、屋根は三角屋根だ。
床の真ん中に出入り口の穴が空いており、梯子がかかっている。

ライナーは後ろの、佳奈子から斜め後ろの柱に行き、その大きな身体を柱に預けた。
一旦目を閉じたあと、彼は再びを目を開けた。

「・・・2、3時間したら起こしてくれ」
「うん」

佳奈子の返事を聞いてライナーは目を閉じた。
一方佳奈子は「うん」と返事はしたものの、彼が自然に目を覚ますまでは起こす気は全く無かった。
話し相手がいないのは退屈だが仕方ない。





―――それから、ライナーが起こしてくれと言った2、3時間が経過した頃だろうか。
さて、彼は寝れただろうかと、何気なく佳奈子は振り向いてみた。

腕を組んで柱に寄りかかって寝ている格好に変化はない。
ただ、その表情はとても安眠している者のそれではなかった。
眉間には深いシワを何本も作り、力強く閉じられた瞼は時折痙攣している。
きゅっとキツく結ばれた唇は、皮が切れてしまいそうなほどだ。

ライナーはうなされていた。彼の寝付けない原因はこれかと、佳奈子は今知った。
傍に寄るも、起こそうかどうか悩む。

ライナーが腕組みの状態から自分を抱くように服をぎゅっと握り締めた。
大きな拳には血管が浮き、白い肌が更に白さを増す。
いつも胸を張っていて、誰からも頼りにされる彼が、何かから自分自身を懸命に守ろうと身を縮こめている。
そんなにも恐ろしい悪夢を見ているのだろうか。

起こして悪夢から開放してやるのが一番の方法だろうが、佳奈子はそうはせず、見てるこっちが痛いほど
握られた拳に自分の手を重ねた。佳奈子には今のライナーが一人で怯えている小さな子どものように見えたのだ。
それで自然と、一人で怯えなくていいよと伝えたくて手を重ねていた。

すると、あんなにも力いっぱい握りこまれた拳が少しずつ緩んでいくのが分かった。
表情も和らいでいて、佳奈子も思わず微笑む。

「―――これで少しは役に立てたかな?」

ぐっすりなライナーからの返事はもちろんないが、なんだか頷いたようにも見え、
佳奈子は彼の腕に少し身を寄せた。そして佳奈子の記憶はそれきり途絶えた。





ゆっくりと覚醒しつつある意識と共に、ライナーは目蓋を開ける。
悪夢から飛び起きた時とは違う、とても穏やかな起床だ。

―――起床?

ライナーは、ハっとして完全に目を覚ます。そして妙な重みに気づいた。
隣に視線をやれば、そこにはいつの間にかライナーに寄りかかって寝ている佳奈子の姿があった。
あどけない寝顔と少し開いた唇にどきりとしたが、それも束の間でライナーはちょっと青ざめる。
いつからかは不明だが、二人して寝ていたことになる。教官に見つかっていたら大目玉を喰らうとこであった。

いつも通りの悪夢にうなされていたが、それが途中で消えたのは彼女のおかげだったようだ。
暖かく、なんだか安心するようなあれは、姉のような存在である(ライナーには妹のようだが)佳奈子らしい。

東の空から光が溢れ始めている。もうすぐ太陽が出るだろう。
こんなにも爽やかな気持ちで朝を迎えるのはもう何日以来か。
起こせと言ったのにと佳奈子を恨みながらも、自分を思ってくれたことには感謝しなければならない。

それらの気持ちを半々にして、ライナーは彼女の頭をやや乱暴に、しかし起こさないように撫でながら礼を言う。

「ありがとうな、カナコ」



2014.8.01