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ソグディアナイト・ダイアローグ・キッス-04  





どうしても人には聞かれたくなかったので、自己練習の名目で立体機動装置を持ち出し、いつも実技で使用する森へと
佳奈子とライナーはやってきた。すると彼は、到着するなりアンカーを飛ばして宙高く舞い、下にいる佳奈子に向かって
「着いてこい!」と笑顔で一言。

・・・佳奈子の立体機動の成績は決して悪くないが、それでも中の上に食い込むかどうかのものだ。
反対にライナーは上の上。更に5位圏内という桁違いの実力差だ。だが、追いかけなくては置いていかれる。
せめて彼の後ろ姿を見失わないようにしなければと、佳奈子は溜め息混じりにアンカーを飛ばした。



―――なんとかライナーを見失わずに追いかけてはこれたものの、やっと彼が枝の上で止まる頃には佳奈子の
息は上がっていた。

「お。やっと到着か」

隣に降りた佳奈子へライナーがにやりと笑う。一言返したい佳奈子だが、まだ息が整わないので変わりに
彼の脇腹を拳で突く。服越しでも、その恐らく綺麗に六つに割れているであろう腹筋が分かる。

ライナーが手加減をしてくれたことを佳奈子は知っていた。
立体起動中彼は何度かちらりと後方を佳奈子の方を見ていたのだ。全くとことん兄貴である。
少し悔しくて佳奈子は口を尖らせた。

「・・・上位のお方はこれぐらいは準備運動にもならないようで」
「ははっ。そう拗ねるな。お前以前より動きが良くなってるぞ」

ライナーはそう言って、わしわしと佳奈子の頭を撫でる。
彼には良く頭を撫でられるが、相変わらず力の加減は出来ないようで頭が右へ左へと揺れる。
しかしそれも慣れたものでこそばゆいが正直嬉しい。

「・・・で、相談ってのは何なんだ?」

ライナーは真面目な顔つきになった。

きっと彼を追いかける前の佳奈子だったらなかなか言い出せなかっただろう。
けれど今は立体起動で空を翔けたからか、なんだかすっきりとした気持ちだ。
ライナーはこれも見越しての行動だったのだろうか?だとしたら彼には到底敵いそうにない。

佳奈子は躊躇なくはっきりと口にする。

「単刀直入に言うと、キスされた」
「ブホォ!」

ライナーは勢いよく吹き出したあと「マジか・・・?」と佳奈子を見る。それに佳奈子は頷いた。

「・・・そうか。というか恋愛関係じゃ俺は役に立てないかもしれんぞ」
「あぁ・・・確かに」
「コイツめ」

彼を上から下まで眺めて同意するとこつんと頭を小突かれた。
しかし「誰に?」なんて野暮な事を聞かないライナーは察しが良くて気も利いていた。

「それで?」

ライナーは続きを促す。

「・・・何でキスしたのかなあ、って」
「何でって、そりゃ、お前が好き、だからだろう・・・」

ライナーは語尾をごにょごにょとさせながら何故か若干頬を染めたが、やはり恋愛感情なのだろうかと考える佳奈子の目には入らない。
まぁ挨拶でキスをする習慣なんてこの世界には無いようだし、アニのあの切なげな顔は挨拶なんて気軽なものじゃないだろう。
あれはもっと何か決意のような別れのような。一種の覚悟を感じるものだった。

ライナーは腕を組んでしばし思案したのち唇を開いた。

「お前はどうなんだ?」
「え?」
「その相手のことをどう思ってるんだ?」

彼の質問はつまりキスされてどうだったのか。

断言してしまえば―――アニにキスをされて悪い気はしていない。
元々同性愛に偏見がなかったのと(まさか自分がその対象になるとは思いも寄らなかったが)、彼女の容姿もあってだろうか。
目つきは鋭く常に固い表情のアニだが、目鼻立ちが整っている美少女だと佳奈子は思っている。
・・・そんな彼女にキスをされて満更でもないわけだ。ただそれが恋愛感情に繋がるのかというと、そうとは言い切れないし、
違うとも言い切れない。どっちにも転ぶ可能性があった。

「・・・・・キスされて嫌な気分じゃなかった、」
「す、好きなのか!?」

ライナーが大声を上げて佳奈子の両肩を掴んだ。おまけに顔も寄せてくるものだから佳奈子はたじたじとなる。

「そういうんじゃなくて、友人として好き・・・かな」

「・・・というかライナー近いよ」と眉を下げると、彼は「わ、悪い」と謝って一歩離れた。

「―――まぁキスした時点で大方答えは出てると思うが・・・理由を聞いてどうするんだ?」
「その答えによって私はどう接したらいいか確認したい」

「でも、」と佳奈子は視線を下げた。

「私は避けられているから、もう私に関わりたくないのならその人の意思を尊重したいかなあって」

本当は有耶無耶のまま、このまま終わってしまうのは良くないことは分かってる。
けれどこんなデリケートな問題だ。それも仕方の無いことじゃないか。

「本当にそれでいいと思ってるのか?」
「良くないって分かってるよ・・・」

上から聞こえるライナーの少し刺のある言葉に内心いらつく。
それから大きく息を吐く音がした。

「はぁ・・・。相手の事を思いやれるとこはカナコ、お前の美点だ。けどな、他人を優先し過ぎて自分をないがしろにしちまうのは駄目だ。
・・・たまには我を通してみてもいいんじゃないか?」

ぽんぽんと優しく頭を撫でられる。顔を上げてみればライナーと視線が合い「な?」と彼は微笑んだ。
本当は自分の方が年はずっと上なのに、どうして彼はこうも出来た人間なのだろうか。

さっきはアニの意思を尊重したいなんて言ったが、それは建前でこの問題を避けてしまいたかったのが本心だった。
いつまでも胸にしまっておけるわけでもないのに、いつかミカサに気づかれようとも、あとの問題より今この厄介事から
目を背けて無かったことにしたかった。なあなあで行けるならそれでいいだろう。それは佳奈子の昔からの悪い癖だった。

けれどそんな妥協続きで生きてきたからか、こうしてつけが回ってきたのだ。
相談に乗ってもらったライナーに答える為にも、このままで終わりたくないアニとの関係の為にもやはり佳奈子は尋ねなければならない。

「ねぇアニ、どうしてキスしたの?」



2014.6.12