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アイオライトが温厚篤実だと誰が言った?  





「カナコってさぁ、男子に媚びてる感じしない?」

ふっと出たそれを皮切りに他の女子二人も賛同するように言葉を並べる。

「分かる分かるー」
「誰にでも良い顔してるしねぇ」

そうして彼女たちは楽しそうにクスクスと笑った。

―――どうも女という生き物はお喋り、特にこういった陰口が大好きだ。
しかし他人を貶めるそれは一種の自己防衛なのかもしれない。
自分がその陰口の対象にならないよう先に標的を見つけて我が身の安全を獲得するのだ。

さて、この会話を耳にした第三者の正しい行動とはどんなものだろうか。
きっと一番は「陰口などよくない」と嗜めることだろう。陰口の対象となった者と親しかろうがなかろうがそうすべきなのだ。

だがそんなご立派な正義の心などユミルは持ち合わせていない。
もちろんこれが可愛い可愛い女神様のクリスタであれば話は別だ。しかしクリスタ以外の人間は正直な話しどうだっていい。
・・・例え陰口を叩かれている張本人が隣にいようともだ。

運悪く教官に指名され、せめてクリスタと一緒だったならと苦々しく思いながら雑用という名の面倒事を片付けた帰り。
通りかかった座学室で耳に入ってきたのがこの会話だ。

「良いご趣味で」

そうユミルは鼻で笑い、隣の彼女に視線をやった。大抵の人間に受け入れられている佳奈子がこんな時どんな顔をするのか気になった。
いつもと変わらないあのヘラヘラした笑みは崩れないのか、それとも深く傷ついて泣くのだろうか。
変化の無い前者はつまらない。かと言って後者の場合ユミルは酷く失望することになる。

これでも佳奈子の事はその他大勢より上に見ているのだ。不確かなものは嫌いなユミルだが、勘だ。
彼女はただの"みんなのお姉さん"ではないという勘。だからどうか、この程度の女だったのかと思わせないで欲しい。
この不確かな勘を確かなものにする為にも。

そしてユミルの密かな期待は、彼女の予想とは違った形で叶えられた。

「むかつく」

視線を移した先の佳奈子はただそう言った。その顔はいつもの微笑どころか、感情の見えない無表情だった。
笑顔を見慣れているせいか、それはやけに不気味に思えた。

ユミルは驚く。まさか佳奈子からこんな言葉が出るとは思ってもみなかったのだ。
ただ、思っても口には出さないやつだと勝手に決め付けていた。しかしこうでなくてはつまらない。
ユミルはにんまり笑う。とにかくあやふやだったものが確実となった。

佳奈子は夜の悍ましさを想像させる両眼で彼女たちを捉えながら、無機質な声でもう一度言う。
その響きは快感のような気持ちの良さをユミルに与え、笑みを深くさせた。

「むかつく」



2014.5.25