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魔法使いモルダバイト  





ベルトルトの高く広い視界では、とても小柄で常に動き回っている佳奈子はよく目に付いた。
・・・いや、きっとベルトルトでなくとも、常に輪の中心にいる彼女は誰の目にも付くだろう。

一緒に夕飯の食事当番となった佳奈子は、今も炊事場を動き回っている。
普段から声が大きいというわけでもないのに、その体格からは想像出来ない大きな声はこの場にいる全員の耳によく届いた。
入団当初は食事の準備など母親に任せきりだった者が多く、ほとんどが料理などてんで勝手が分からないといった状態だった。
そんな中で佳奈子はてきぱきと指示を出し、包丁の扱い方や鍋の火加減などを個々に教え、当初は「お母さん」とみんなに
崇められていたものだ。

「あっ、」

そんな少し昔を振り返っていたからか、じゃがいもの皮を剥くはずがベルトルトは自分の指を切ってしまった。
しかし多少の痛みはあるものの、何も思うことはない。傷が浅いというのもあるが―――何よりこんな傷はすぐに治ってしまうからだ。
こんな時ベルトルトは、改めて自分は人間ではないのと課せられた使命という現実を目の当たりにする。

「・・・指、切っちゃった?」
「!う、うん、けど浅いから大丈夫だよ、」

いつの間にかベルトルトを覗き込んでいる佳奈子から、慌てて剥きかけのじゃがいもと包丁を置き、切った指を手で握り隠す。
一センチ弱のそれは赤い線だけを残して今はもう塞がっている。見られるわけにはいかない。

佳奈子は特に疑問を抱いた様子も無く、お馴染みの微笑を作った。

「そう?あ、止血するならハンカチ使って」
「・・・ありがとう。・・・・・洗って返すね」

引け目を感じながらもベルトルトは彼女の差し出したハンカチを受け取り、意味もなく指にあてる。
こういった繊細な気遣いがきっとみんなから慕われるのだろう。

「それじゃベルトルトは血が止まるまで少し休憩ね」
「・・・・・ごめん」
「気にすることないって。あ、そうだ」

そう佳奈子は何かを思い出したかのようにして、

「痛いの痛いの飛んで行けー」

とごく自然に人差し指を杖のよう振った。一瞬ベルトルトの思考は停止した。

「・・・」
「・・・」

ベルトルトが拍子抜けして彼女を見ると、佳奈子も黙ってベルトルトを見る。
暫しの時間二人して無言でいると佳奈子の頬が徐々に赤く染まっていき、

「い、今のは笑って欲しい所だったんだけど・・・」

とても恥ずかしそうに苦笑した。
・・・そんな珍しく余裕の無さそうな彼女も、先ほどの子どもっぽい彼女も可愛いと思ってしまうのはベルトルトだけなのだろうか。

なんだかベルトルトまで恥ずかしくなってきてしまい、顔の熱を感じながら俯いた。

「ご、ごめん・・・」



2014.5.16