気高きルビーの女王
「カナコ、寝癖が・・・」
「え、ほんと?」
起床後。
着替えをしていたところ、ミカサにそう指摘されて佳奈子は頭に手をやるが、「反対」と彼女にうっすら微笑まれてしまった。
「・・・私が直す」
ミカサは櫛を持って、何度か佳奈子の髪の毛を梳かし、そして満足そうに一回頷く。
「直った。これで大丈夫」
「ありがとう、ミカサ」
佳奈子が微笑むと、ミカサも瞳を細めて笑った。
最初こそこの世話焼きが気はずかしったものの、今ではこれが日常で、無いと違和感を感じるぐらいだ。
「ちょっと、あなた達!」
―――しかし、その日常に物申す人物がいた。
「あ。おはよう、ヘンリエッテ」
「ええ、おはよう」
物申した人物―――ヘンリエッテは、釣り目を更に釣り上げながらも佳奈子の挨拶にきちんと返事をした。
しかし直ぐに人差し指をビシっと佳奈子へ向けた。
「全く毎日毎日世話を焼かれっぱなしで!淑女たるもの、身だしなみは自分で整えるものよ!」
こうして構う彼女こそ一番の世話焼きなのだが佳奈子は黙っておく。
彼女の名前はヘンリエッテ・シュテファン。
年は佳奈子より二つ年上で、それもあってか先ほどのように世話焼きなところが多々ある。
それを好意的に捉えるか煙たがるかは人それぞれだが、佳奈子は前者だ。
はきはきとしていて言いたいことをきちんと口に出す彼女は見ていて清々しい。
加えてヘンリエッテのその容姿。
少しボリュームのある薔薇色の髪、キツくなく程よく吊り上がった翡翠の瞳。
身長も高く、その見事な長い美脚は羨ましい限りだ。守ってあげたくなるようなクリスタとは対照的で、リードしてもらいたく
なる彼女は、好みは別れるだろうが誰が見ても美人という真実は揺るぎない。
・・・つまりこんな美人に世話を焼かれるのは悪い気がしないのである。
なんでもヘンリエッテの家、シュテファン家は貴族の家柄のようだ。
言われてみれば彼女の言動はどこか洗練されたものがあり、口癖である「淑女たるもの〜」や「我が家では〜」にも納得がいく。
「カナコ!聞いてるの!?」
「あ、うん。聞いてる、聞いてる」
詰め寄って来たヘンリエッテに頷いたのだが、どうも彼女はお気に召さなかったようだ。
きりっと整った眉を八の字にした。
「本当かしら?あなたってたまに心ここに在らずってことがあるから心配だわ・・・」
頬に手をあて悩ましげに溜め息を吐くヘンリエッテの姿はまるで巨匠が描いた絵画のようである。
しかしそれもずいっと割り込んできたミカサによって見えなくなった。
「カナコはとてもしっかりしている。・・・ので、何も心配することはない」
「あなたが言ってもねぇ・・・。少しはカナコ離れしたらいかが?」
「それは無理」
ミカサがきっぱりと断言した。その潔さに佳奈子は苦笑するしかない。
「ふぁー・・・皆さんおはようございますぅー・・・・」
そんな眠たげな声で登場したのはサシャだ。
その寝起き全開の姿を目にした佳奈子は、これはヘンリエッテの雷が落ちるなと察した。
ミカサも察したのだろう、そしてどこまで過保護なのか佳奈子の耳をさっと塞いだ。
「サーシャー!!なんなのそのだらしない格好はー!!早く顔を洗って寝癖も直して服装を整えてきなさい!!!!」
「は、はぃいいいいい!!」
2014.5.8