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クリスタルを名乗る飾り石  





「クリスタ」

時に彼女は柔らかい声で。

「クリスタ」

時に彼女は心配そうな声で。

「クリスタ」

時に彼女は暖かい声で。



―――クリスタ。

佳奈子にそう呼ばれる度に、必要とされる喜びとどうしようもない虚無を感じる。
だってその名前は誰にでも優しくてみんなから愛されるクリスタ・レンズという子のものであって。
本当の名前じゃない。本当の『クリスタ』じゃないのだ。

「クリスタ」

違う。それは違う子だ。しかし本当の『クリスタ』を顕にしたところで誰が必要としてくれるのだろう。誰が愛してくれるのだろう。
現に母親は愛してくれなかった。面と向かって言われたのは拒絶の言葉だ。

お前なんか産まなきゃよかった。

・・・だから、望まれなかった可哀想なヒストリアの代わりにクリスタ・レンズが生まれた。
けれどそれが今になってヒストリアを苦しめる。

どうかヒストリアという存在を認めて欲しい、愛して欲しい。
だが彼女にも拒絶されたらどうしたらいいのだろうか。

幼い頃絵本で読んだ母親のような愛に溢れた彼女。
ヒストリアに興味を持って優しくしてくれる、そんな正に理想の母親に
また拒絶されたら。クリスタは、ヒストリアは、今度は『誰』として生きればいいのだろう。

―――ヒストリア・レイスとして生きる勇気はまだ無い。
けれどいつかその勇気が持てたのならば、胸を張ってこう言おう。自分を慈しんでくれる母親にその名を告げるのだ。

「カナコ私ね・・・本当はヒストリアっていうの」



2014.4.29