インドスタールビーの秘し隠し
「カナコは、隠し事をする人のことをどう思う・・・?」
そう言ったはいいものの、クリスタは直ぐ様後悔した。この質問そのものこそ、隠しておくべきはずだった。
なのに、彼女にどう思われるのか気が気でなく、ついに言葉にしてしまった。
しかしそれでも不安は拭いきれず、隠し事をする者は嫌いか?という断定をクリスタは拒んだ。
人に嫌悪されるのは、ましてや佳奈子に嫌悪されることは恐怖でしかなかった。
「それは―――嫌いかってこと?」
拒否した言葉が彼女から出てきて、クリスタは全身に冷水を浴びせられたかのようなぞっとするものを感じた。
自分に向けられたわけでもないのにこれだ。
きっと、面と向かって言われてしまえば、それは鋭い剣となってクリスタの心臓を一突きしてしまうに違いない。
クリスタはきゅっと唇を噛み締めて、恐る恐る頷いた。
「そうだなあ・・・」
佳奈子は黒い目を上へやって考えているようだった。そして、その黒い目が戻ってくると、
「じゃあクリスタはさ、その人の全てを知ったら好きになれるの?」
「えっ・・・それは・・・・・」
好きか嫌いかの判定に身を構えていたクリスタは、佳奈子からの思わぬ返しに言葉が詰まる。
「少し言い方を変えようか・・・クリスタは、”その人の全てを知らないと好きになれないの?”」
「・・・ううん、そんなことはない」
クリスタは今度は凛々しく、はっきりと答えた。
例え全てを知らなくても、佳奈子が、ユミルが、ここで出会った人達が大好きだ。誰も、クリスタを除け者などにはしないから。
「そうでしょ?」
佳奈子はとても満足そうに微笑んだ。
「誰にだって隠し事や秘密は、多かれ少なかれあるよ」
「・・・カナコにも?」
クリスタがそう言えば、佳奈子は少し目を見張ったあと、頷いた。
「もちろん、私にだってあるよ」
―――全てを知らなくても佳奈子のことは好きだ。けれど、全てを知れたら、好きという感情云々より、
クリスタの心は満たされるような気がした。しかし、彼女の全てを知るということは、自分も同等に全てを見せなければならない。
だが、今のクリスタにはその勇気もなければ覚悟もなかった。
・・・そして隠し事以前に、彼女のことを何も知らない事実でさえも、クリスタは隠してしまったのだった。
「・・・そっか。そう、だよね」
2014.4.15