始まりのジェダイド
小鳥の囀りと、暖かな日差しを瞼の裏で感じながら、ミカサはつかの間の睡眠から目を覚ました。
「おはよう、ミカサ」
ベッドの上、ミカサが最初に目にしたのは、白い顔をして微笑む佳奈子であった。
どこか眼がぼーっとして見えるのは、彼女が低血圧だからだ。起床して3、4時間ほどはこの状態である。
「・・・おはよう、カナコ」
ミカサも佳奈子に習って目を細める。たかが挨拶だけれど、ミカサはたったこれだけのことでも幸福を感じた。
朝、目を覚ませば佳奈子がいる。数年前までは日常であった日々が、こうしてまた返ってきた。
場所も、ミカサ自身も、彼女も、色々と変わってはしまったけれど、佳奈子と再び会えただけで充分だ。
「寝癖ついてる」
佳奈子がミカサの頭をそっと撫でる。その心地良い手に、ミカサは目を閉じた。
何時だったか、幼い頃父と母に撫でてもらった感触が蘇る。
・・・ずっとこうしていられたらいいのに。
兵団も、巨人も、壁も、全部忘れて、エレンと佳奈子、それからアルミンと、ひっそりと生きてさえいければ。
だがそう願う一方で、それが叶わない夢であるのをミカサは嫌でも知っている。
だってこの世界は残酷で、戦わなければ生きていけないから。
最後に一撫でしたあと、佳奈子の手が頭から離れて行ったのを感じ、ミカサは瞼を上げた。
「ミカサ、そろそろ起きなくちゃ」
2013.10.8