恐れ知らずのレースアゲート
佳奈子は棚の前で、本に向かって手を伸ばす。
「・・・んー」
しかし、あとちょっとのとこで指先が届かない。平均的な身長であれば届くのであろうが、佳奈子の身長は平均以下。
爪先立ちをしないといけないことがほとんどだ。
ここはしょっちゅう世話になっている梯子を持ってくるか。
と、佳奈子が諦めたところに、後ろから腕が延びてきた。
そしてその腕は、佳奈子が苦戦していた本をいとも簡単に手にした。
佳奈子は本を追って振り返る。
「ほら、これだろ」
そう言いながら佳奈子に本を差し出したのは、エレンであった。
「うん。どうもありがとう」
佳奈子は礼を言って受け取る。
・・・意外だなと、内心驚いた。
エレンには避けられていると分かっていたし、極力接触は避けてくると思っていたのだ。
ミカサと共に行動するということは、当然彼女の家族であるエレン、幼馴染みのアルミンとも一緒に
行動することが多い。
すると、やはり会話は必然であり、けれどもエレンとは価値観の違いからか意見の対立が多かった。
といっても、彼と犬猿の仲であるジャンほどのものではない。それとは全く反対の静かな、言葉の主張だ。
そしてその結末は、だいたいが痺れを切らしたエレンが強制的に終わらせるか
(その場を離れていってしまうのがほとんどである)、平行したまま自然消滅が常だ。
「・・・なんだよ。人の顔黙って見て」
エレンが顔をしかめる。どこか決まりが悪そうなのは、自分で佳奈子を避けている自覚があるからなのだろうか。
「いや、意外だなと思って」
佳奈子は正直に話した。彼の性格上こうした方がいい。
変に誤魔化せば、またいつもの繰り返しだ。
「悪いかよ」
エレンはしかめっ面のまま、頭をかいた。彼のこういう顔は年相応だ。
そしてその顔は佳奈子の言葉で更に年頃の少年らしく変わる。
「ううん、全然。むしろいいよ」
2013.12.24