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不条理、不合理、アンバー  





冗談だったのだ。

いつものちょっとした、からかい半分の言葉だった。それなのにと、ジャンは狼狽える。
視界には短い黒髪の女子。けれど、ふと気づけばジャンが目で追ってしまうミカサのものではない。
それは彼女よりもずっと背が小さく、小柄な佳奈子のものだ。

佳奈子の髪はつい昨日までは肩より少し長かった。
昨日、夕飯後にジャンと話した時も、まだ髪は長かった。ジャンは佳奈子との会話を思い出す。

『おチビちゃんよー、その髪切った方がいいんじゃねぇの?立体起動に巻き込まれても知らねーぞ』

そう、何気なく佳奈子の黒髪に触れてみる。思っていた以上にさらりとした感触に内心胸が高鳴った。

『そう?』
『そーそー。ただでさえ再検査で合格もらったんだからなおさらだろ』
『・・・そっか。そうだね。うん。ありがと、ジャン』

ジャンにとってはさほど意味を持った言葉ではなかったのだ。
ただ、エレンがミカサにした真似事を彼女で再現しただけで。ミカサと同じ綺麗な黒髪に触るきっかけが欲しくて。
本心は切って欲しくなんてなかった。



凝視していたせいか、ふいに佳奈子と目が合い、「あっ」と小さく口を開けた彼女は、小走りでジャンの方へやって来た。
その際の揺れる短い髪が恨めしかった。

「ジャン、ありがとね」
「は?なんだよいきなり」

思わずぶっきらぼうに返してしまったが、佳奈子は特に気にした風もなく、

「あ、ごめん。言葉足らずだった。・・・髪、前から切ろうと思ってたんだけど、なかなか踏ん切りというか、きっかけがなくてさ」

「だから、ありがとう」と、佳奈子はやんわり笑う。
その笑顔とお礼の言葉に胸がチクチクと痛んだが、ジャンはよしとした。
なんにせよ、自分は悪くないのだ。自分はただの"きっかけ"に過ぎず、この結果は佳奈子がもたらしたもの。

―――そう思いたいのに。

佳奈子の隣に佇むミカサの視線がそうはさせてくれなかった。
普通なら嬉しいはずの視線だが、残念ながらこんな冷たい視線で喜べるほどジャンはぼけていない。

ミカサは唇を動かすことはなかったが、その目はありありと語っていた。

「お前のせいだ」



2013.12.13