カッパーはエロスを隠し持つのか
風呂上がりのライナーが部屋へ戻ろうと角を曲がると、
「わっ」
「おっと、」
逆方向からやって来た佳奈子とぶつかってしまい、よろけて後ろに傾きそうだった彼女を、ライナーは腕を掴んで立たせた。
「ありがと、ライナー」
「いや。俺の方こそ悪かった。・・・ん、お前、風呂入ったのか?」
ライナーを見上げて微笑する佳奈子の髪は少し濡れていた。
しかし、彼女が来た方向は逆方向だ。忘れ物でもしたのだろうか。
その考えは当たっていたようで、佳奈子は「ちょっと脱衣所に忘れ物しちゃって」と、恥ずかしそうに微笑んだ。
しっとりと濡れた黒髪、程よく赤く染まった頬、少し開いた唇、香る石鹸の匂い。
訓練中とは違う佳奈子に、ライナーはどきっとした。
別に、風呂上がりの彼女を見たのはこれが初めてなわけではない。
入団最初こそ、女子の風呂上がり姿にどきりとしたものだが、ここ最近ではなれたものだったのだ。・・・これも昨晩の会話のせいだ。
「カナコってさぁ、なーんかエロイんだよなあ」
思春期の男子にはありがちなこの手の話。
大抵が「誰が好み?」「俺はクリスタ」「やっぱりクリスタか〜」なんて感じなのだが、今晩はちょっと違ったわけだ。
「あー、それ分かるかも。寝起きとかのぼーっとしてる顔とか」
「座学の時の鉛筆を口にあてて考えてる時とかな」
なぜそんな簡単にぽんぽん出てくるんだというくらい、あれがエロイ、ここがエロイと尽きることはない。
小柄なのと、童顔からのギャップなのだろうか。盛り上がっている。
寝る前にそんな話やめてくれとライナーは思ったが、止めるわけでもなく、
むしろ聞き耳立てていたのだから、ほんとしょうもない。
「ライナー?おーい」
「!わ、悪い、ぼーっとしてた」
ハっとしたライナーは佳奈子から目を逸らす。
昨晩の結論は『風呂上がりが一番エロイ』だったのだ。
こんな状態じゃ、彼女と雑談なんかしていられない。
佳奈子も忘れ物を取りに行くという目的があるわけだし、話を切り上げて早く別れてしまおう。
「・・・・・ほら、カナコ。忘れ物取りに行くんだろ?」
「うん。それじゃあね」
その言葉を聞いてほっとしたライナーだったが、佳奈子が横を通り過ぎる際にそれは起こった。
彼女はどうしようもないほど女の子の匂いをさせながら、
「―――もしかしてライナー、エッチなこと考えてた?」
2013.10.21