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セラサイトよ、安堵をおくれ  





じーっと、サシャはしゃがんだ体勢で上目使いに見つめる。強請るように、懇願するように、だが、謙虚そうにするのは忘れない。
横取りするのではなく、相手の善意から譲ってもらうのだ。
すると、少しして苦笑顔を添えて目の前にパンが差し出された。

「あげるよ、サシャ」
「ありがとうございますっ!カナコ!」

サシャはバっと勢いよく立ち上がると、遠慮なく彼女の手からパンを頂戴する。

そして、その場でパンかぶりつく。サシャにとっての至福の時だ。
しかしそんな時を笑顔で堪能していたところ、そこに佳奈子とともに昼食を取っているミカサの、冷ややかな視線が割って入ってきた。

全て口の中に放り込んだパンをもぐもぐ咀嚼しつつ、サシャはハっと気づく。

「も、もしかして、ミカサもパンをくれるんですか!?」
「馬鹿を言わないで」
「ば、馬鹿とはなんですか・・・!!」

ぴしゃりと言われ、サシャはちょっと傷ついた。

「・・・サシャ。あなたにはあなたの分の食事があり、あなたはそれをきっちりと食べている。
カナコにもカナコの食事の分があり、これをきっちりと食べなくてはならない。量はみんな平等。・・・・・だから、カナコにたからないで」

サシャからパンを遠ざけてミカサがそう言い放った。

ミカサの言う通りだが、いくら平等といえどあれしきの量で足りるはずがない。
それも食べ盛りの、しかも食いしん坊のサシャならなおさらのこと。

それに、これは佳奈子からくれたのだ。サシャが物欲しそうにしたのは確かなものの、寄こす気がないのなら頑なに拒否するはずだ。
佳奈子だって毎回恵んでくれるわけじゃない。サシャにあげる気がない時は、眉を申し訳なさそうに下げて「今日はあげないよ」と断る。
それはミカサだって何回も目撃していて、知ってるのだ。

・・・自分だって、時おり彼女は食べなくて平気なんだろうかと心配する。

パンをくれない時はあれど、くれる方が圧倒的に多いのだ。腹に溜まると、逆に腹に溜めておいた方がいいだろうに。

ただでさえ小柄で細い佳奈子だ。いつか倒れてしまうんじゃないのかと思う。
サシャにパンをあげてしまったがために、そんな罪悪感を感じてしまう。

「いいんだよ、ミカサ。私があげたんだから」

佳奈子がそう言うが、ミカサの表情は硬いままだった。

「それはカナコが優しいから、」
「ミカサ」
「・・・・」

納得いかないミカサをじっと佳奈子が見つめ、押さえた。
それはまるで、子を叱る母のようであった。ミカサがなにかをこらえるように唇を噛んだ。

佳奈子はふっと微笑んで、手を伸ばし、向かいに座るミカサの頭を撫でた(なぜか羨ましかった)。
するとミカサは、歯の力を抜いて密かに口を弧にした。ほんのりと、頬も染めながら。

なんだか二人の世界でサシャは置いてきぼりだったが、ミカサの頭から手を放した(ミカサは名残惜しそうだった)佳奈子が
優しくサシャに目を細める。

「サシャ。いいんだからね」

・・・いつも彼女はそんな風に済ましてしまうから、だから、サシャは甘えてしまうのだ。母親のような寛大さに、妥協してしまうのだ。

自分にパンを恵んでくれるクリスタは神だ、女神だ。けど、佳奈子は違う。
神よりも近くて、それでいて尊い存在。まさに母なのだ。

「・・・カナコ、あの、怒らないで聞いて欲しいんですけど、」
「ん?」

言ってごらんという穏やかな瞳に誘導され、サシャの口からはするりと言葉が出た。

「カナコは、お母さんみたいです」



2013.10.15