SIREN 短篇蒐


 護ることで守られる


 初めてと会ったとき、彼は十一歳だった。
 変異種に一般社会の枠組みを当てはめるのは無粋ではあるが、それでも彼は世間でいうところの小学生であって。変異係数さえ平均値内であれば、エンジェルケージで保護されている年頃だった。
 だというのに、彼は埒外の能力を持ってしまったばかりに幼くしてソロネの階級を与えられ、更に六歳の子供を同じソロネ候補だからと押しつけられたのだ。
 当時の私は、異能の発現と同時に家族を失い、親殺しの罪の意識に苛まれていた。私の親なんて元からろくなものでもなかったのに、それでも子供にとって家族というものは一定の引力と呪力を持っているもので、それは私にも例外ではなかったのだ。
 彼はとても頭が良かった。後期第四世代で、生まれつきの変異種だった。
 顔が良いせいでテレビにも出たことがあると、何処かで聞いたことがある。

『幼少の頃は散々天才少年なんて持て囃してた連中も、旬が過ぎると掌を返してきたもんだぜ。お前はその辺気にしなくて良さそうだな』

 幼かった私は、その言葉の意味と彼の寂しそうな顔の理由がわからなかった。頭がいいのは良いことではないのかと思ったのを、いまでも覚えている。

『お前、本当にソロネになっちまったんだな。……まあ、一般ソルジャーよりは出撃回数も少ないし、万が一が来ないことを願うしかないか』

 十歳のときだった。私はソロネの階級を与えられ、と暮らすいまの家に移った。
 給料も良くなって一方的にの世話になるばかりではなくなると思ったのに、は相変わらず私の世話をし続けて、私の保護者であり続けた。その理由を、当時の私は全く理解出来なかった。よりも自分のほうがずっと強いのにとさえ思っていた。

 けれど、一度彼との出撃を経験したいまならわかる。
 彼は置いて行かれることをなによりも恐れているのだと。前線へ行こうとした私を見る彼の目に映っていたのは、紛れもなく怯えだった。
 これまでの人生で、彼は幾度となく身近から人が去って行く経験をした。人好きのする性格や、軽薄そうに見える外見、人懐っこい外面。
 全てが彼の鎧なのだと理解したいま、私に出来ることは一つ。

『私は、君を置いては逝かないよ。君が帰りを待っている限りは、だがな』

 十五の誕生日。彼お手製のケーキを前に、私は言った。
 前触れ無くそんなことを言ったものだから、彼は一瞬面食らって、それから器用なことに破顔しながら声を殺して泣いて見せた。



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