小さな一人と一匹の約束。
「……た、たすけて!」
少女が小さな叫び声をあげて目覚めたのは、日が沈みかけた頃だった。
叫んだスミレは、一瞬、自分がどこに居るのか分からなかった。
「あ、れ……?」
辺りを見回すと、そこは見慣れた祠だった。
「……! まーちゃん!」
一瞬、マネネが居ない事に焦ったスミレだったが、
よく見ると、マネネはすぐ横で寝息を立てていて、スミレは安堵する。
しかし、スミレはどうして自分が祠にいるのか分からなかった。
確か、自分はあの緑色のポケモンに追い掛けられて……。
どんどん街から離れて行って、そして……。
「気が付いたかしら」
その時、頭の上から知らない声が降ってきて、スミレはビクリとした。
「だ、誰…!?」
驚いて顔をあげると、優しい金色の髪に灰色の瞳をした少女がこちらを見ていた。
帽子の影に隠れて表情は良く見えない。
大人びた雰囲気を纏っているが、歳はスミレと同じくらいだろうか。
「驚かせてしまったのならごめんなさい。立てる?」
延ばされた手につい掴まった後、スミレはハッと気づく。
し、知らない人だ……!
知らない人にはついて行かないようにって、お母さんが。
どうしよう、どうしよう。
そんなスミレの態度に気付いたのか、少女は帽子を取り、安堵させるように言った。
「ええと、私はレイリ。貴女に危害を加える気は無いわ、安心して。」
「……! マネネーッ」
その声に起きたマネネは、ぴょこんと跳ねた。
そして、スミレの方を向いて嬉しそうに鳴いた。
「え? え?」
何も分からないスミレは、たくさんのクエスチョンマークを頭に浮かべた。
「それじゃあ、レイリちゃんが私を助けてくれたの?」
詳しく話を聴くと、どうやらこの少女、レイリは、
ストライクに追われていたスミレとマネネを助けてくれたらしい。
そして、カンナギタウンの中心にある祠に運んでくれたと言う。
「あ、ありがとう……!」
「お礼を言うなら、ソルネに。」
そう言って、レイリは傍のアブソルを撫でる。
「えへへ、ありがとう、ソルネちゃん。」
スミレもアブソルの頭を撫でる。
アブソルは嬉しそうに鼻を鳴らす。
「それと、カゲネにも。」
そう言って、レイリは後ろを振り返った。
スミレも釣られて振りかえる。
すると、カゲネと呼ばれた大きなリザードンが、急にスミレの方へ頭を擦り寄せた。
スミレは、一瞬固まったあと、大きな声で泣きだした。
数分後、泣きやんだスミレはレイリに連れられて自宅への道を歩いていた。
レイリとソルネ、スミレとマネネの二人と二匹の影が道に長く伸びていた。
「さっきは、泣いちゃってごめんなさい……。」
しょんぼりと俯くスミレ。
「気にしないで、突然近づいたカゲネにも非はあるのだもの。」
ボールに戻されたリザードンを見ると、同じくしょんぼりと項垂れていた。
「まあ、かなり温厚な性格をしているし怖くはないわよ。図体はでかいけれど。」
そんなカゲネを少し不憫に思い、レイリはそう付け加えた。
そんな二人の会話を知ってか知らずか、ソルネとマネネは仲良くじゃれなから歩いていた。
「あのね、本当に助けてくれてありがとう。
レイリちゃんが居なかったら、私は今頃……。」
言いながら、昼の出来事を思い出したスミレはゾッとする。
逞しい身体に大きな鎌。そしてあの攻撃力。
どれをとっても、スミレとマネネには到底敵わないあの力。
彼女が居なかったら、今頃二人共無事では無かった筈だ。
「アレが捕獲対象で良かったわ。」
「ほかくたいしょー?」
「……気にしないで。」
言葉を濁され、それ以上追及できなくなったスミレは口を噤む。
……それにしても、自分は何て弱いんだろう。
走るのは苦手で、すぐに泣いてしまう。
それに比べて、この少女は。
「……私も、強くなりたいなぁ……。」
ポツリと、零した言葉。
「……強く、なりたいのなら。」
「!」
小さく呟いた言葉は、レイリの耳にしっかりと届いていた。
「強くなりたいなら、すぐに泣いてはだめよ。」
スミレの方を真っ直ぐに見て、少女は言う。
「泣くと言うことは、相手に自分の弱さを見せるという事。
怖くて泣きたくなっても、一度ぐっと抑えてみたらどうかしら?」
「うう、我慢できるかなぁ……。」
スミレは不安になる。
だけど。
「でも、私が強くなったら、まーちゃんを守れるよね」
「マネェー!」
そうスミレが言うと、マネネは言い返す。
「ふふ。マネネは自分だって強くなってやる、と言いたいみたいね」
「! まーちゃん、一緒に強くなろうね!」
「マネッ!マネッ!」
小さな一人と一匹は、小さな約束をした。
辺りが暗くなる頃、スミレの家の扉が見えてくるまで、二人と二匹は仲良く並んで歩いた。
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スミレとレイリさん(ラッピィ様宅)のエンカウント話の続きを勝手に書かせて頂きました←
一部の台詞を、ラッピィ様のツイートから拝借させて頂きました!