【con fuoco】





随分前に陽も沈み、月の明かりが無ければ足元も覚束ない丑三つの時刻。動物園の裏側にある海から続く草木の生い茂った道を歩きながら、熱の孕んだ息を吐き出して軽く頭を振る。猛暑日というやつらしいが、肌に纏わり付く衣服が頗る不快だ。
重い足を動かし漸く動物園の裏門が見えた頃、門の手前に見覚えのある人影が一つ。

「なにしてんだよ」

金に輝く髪を夜風に揺らしてこちらを見下ろすのは陸の頂点である若い獅子、シシドだ。
ざわざわ…と背後から吹き抜けた生温い風が辺りの枝葉を鳴らす音が鬱陶しい。

そこで初めて気が付いた。俺は何故、何をしに、ここへ来たのだろうか。わざわざ疲れ切った体を引き摺ってまでここに来た理由は何なのだろうか、と。
頭を傾げて考えてみるも、答えらしい答えは出ず。どう言ったものかと地面を見ていた視線を上げた瞬間、ガチリと目の前の男と目が合った。

「なぁ、」

いつの間にここまで近付いていたのか、僅か20cmほどの距離を開いて覗き込む男が腕を掴む。痛くはないがしっかりと掴まれているため、振り解くことができない。
抗議の声を上げようとした瞬間、にやりと口を笑みの形に歪めたシシドがぐいと顔を寄せて。

「俺、今すげーハラ減ってんだけど」

言うが早いか掴まれたままの腕を引かれ、そのままの勢いで太い木の幹に背中から叩き付けられた。
じんとした痛みが背中全体に広がっていくのを感じながら見たシシドの瞳が月光を反射してギラついている。…興奮、しているのか。

「なんでお前、そんなウマそーなニオイしてんだ?」

ジャケットのボタンが弾け飛ぶ。シャツの裾を捲り上げて侵入したシシドの掌が臍の周りを撫で、焦らすように脇腹を擽る。下から上へ滑っていた指先がやがて胸元に辿り着き、熟れて膨らんだ粒を押し潰したかと思うと不意に弱い力でそこを摘んだ。

「ぁ…っ」

我慢できずに漏れた声に気をよくしたのか、シシドはそこばかりを執拗に責めてくる。摘んで捏ね回され、指の腹全体で擦られ、丸みを帯びた爪で引っ掻かれれば堪らない。
解放された手で口を押さえ付けても零れる嬌声は止まらず、余計に羞恥心を煽るだけに終わる。この男を押し退ければいいだけの話なのに、どうしても実行しようという気は起こらない。
求めているのだ。己の身体が、目の前の男で満たされることを。
その答えに辿り着いた途端、体の熱が急激に上がった。

「っん、ふ……ぅ」

もう自分の体が熱いのか周りの気温が暑いのかシシドの手が熱いのかわからない。
忙しなく動いていた手が腰の辺りで止まり、カチャカチャとバックルを鳴らしてベルトを引き抜いた。人間のように下着なんてものを穿いていないため、ズボンを下ろされてしまえば簡単に下半身が露出する。外気に曝された太股を伝い落ちるのは汗でもなければ海水でもない。
間を置かずに熱を持った中心を握られ、小孔から溢れ続ける粘液を自身全体に擦り込むように動かされる。緩急を付けて繰り返される淫行のもどかしさに揺らめく腰を掴み止められ、無理矢理目線を合わせたシシドが楽しそうに笑って。

「出したいんだろ?」

じわりと染み込むように脳を溶かしていく嘲笑を含んだ声色の甘さに目眩がする。崩れた思考回路は役に立たず、考えることを放棄した頭が勝手に体を動かした。
丁度膝の上辺りで引っ掛かっているズボンはそのままに、触れていた手を引っ込めたシシドに背中を向けて立ち、両の手で尻朶を左右に引っ張って後孔を曝け出す。

「…は、やく…っ!」

普段は言えない懇願の言葉を紡ぎ視線を向ければ、背後の男が低く唸るように喉を鳴らした。
次の瞬間、背骨に走った衝撃に息が止まる。慣らすことなく突き入れられたシシドの熱い欲望が、内壁を押し分けながら腹の中を満たしていく。有り余る充足感と凄まじいほどの圧迫感に目の前が真っ白になった。

「っぐぁ……がッ、は…!」

間髪入れずに動き出したシシドが掴んだ腰に爪を立てる。ガツガツと暴力染みた抽送に痺れるような痛みが合わさって、強烈な快感へと掏り替わり、頭の先から足の先までを余すところ無く駆け巡っていく。
ぐ、と背を押されて必然的に木にしがみ付く体勢になれば、上を向いた剥き出しの自身の先が夜露に濡れた幹に触れた。後ろから押さえ付けられながら激しく何度も揺さ振られ、敏感な自身がゴツゴツとした表皮に擦れる度に瞼の裏で火花が散った。

「ひっ、あ、っいた…ぁ、あ!……んあっ、ぁ!…っん、く、ぅっ……とけ、る…っ!」

薄い皮を削ぐような痛みがたまらなく気持ち良くて、開きっ放しの口から滴る唾液が止められない。吐き出す吐息も吸い込む空気も中で暴れる肉も全てが熱い。
下腹部に渦巻く欲望の捌け口を求めて腰を揺らせば、明滅する意識の中でシシドがくつくつと喉の奥で笑った。

「知ってっか?お前みたいなヤツのこと、インランっつーんだぜ」

言いながら一際強く押し入ってきたシシドに堪え切れず、白く濁った飛沫をぶち撒ける。水の中にいるようなぼやけた視界の隅で飛び散った白濁がデコボコした幹の溝を伝いゆっくりと落ちていく様子を他人事のように眺めていれば、中で爆ぜたはずの熱がまたゆるゆると動き出して。

「もっかい」

掠れた声で囁いたシシドが弱い力で肩口を噛んだ。肌の弾力を楽しむように何度も何度も擽るように、かと思えば抉るような鋭い痛みを伴って。
悪戯に煽られて、追い詰められて、吐き出して、注がれて。何を何度したのか、どれだけの時間が経ったのかわからない。ただ、茹だるような異常な暑さの波に流されていた。

「んんっ!ん、シシ、っド……はあ、ぁ…もっと…っ」

まるで世界を小さく圧縮させたような、その世界だけが四角く切り取られてしまったような錯覚。脳に直接響いてくる己の鼓動とリズミカルに上がる湿った衝突音がやけに大きく聞こえる。
ドロドロに溶け崩れてぼんやりと白んでいく意識の隅に見えたのは、金に染まった水平線と、酷く穏やかな顔をした男の姿だった。





END.
20110730
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初シシサカ。発情期なサカマタさんと少し成長したシシドくん。格好良いシシドくんが書きたいです。




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