【優しい瞳】





柔らかなシルクに包まれた体を捩って身を起こす。ベッドサイドの時計を見れば8時を少し回ったところくらいか。
意識を手放す前までは確かに感じていた温もりが無い。ひんやりと冷たくなったシーツに浮かぶ波紋を指先で辿りながら小さく息を吐いた。

「起こしてくれればいいのに…」

重い腰を庇いながらベッドルームからリビングへと繋がる扉の前へと足を進める。ゆっくりとドアノブを回せば蝶番の控えめな鳴き声が上がった。
扉の向こう側にはゆったりとソファに腰掛けコーヒーを片手に新聞を開いている男が一人。こちらに気付いた男は眺めていた新聞から顔を上げた。

「今日はオフなんだからゆっくり休んでいていいですよ?」

返事はせずに男の隣りに身を沈める。そのまま倒れてやれば丁度良く男の膝が枕になった。

「お前が傍に居ないと眠れない」

すり、と膝に頬を擦り付けて逃げようとする腰を最小限の力で押さえ付ける。私がそう易々と逃がしてやるとでも思っているのか。無駄だ、逃がしてなどやるものか。

「御堂さん…」

チラリと視線だけで見上げた佐伯の目元が薄紅色に染まっている。何だ、こいつもまだまだ年相応な一面があるじゃないか。そう思うともう駄目だ。この男が愛しくて愛しくて堪らなくなってしまう。
今すぐに貪るようなキスが欲しい、と。そう口に出す前に佐伯の掌が頭の上に置かれた。
…そうだな、焦る必要など無い。時間なら余る程あるのだから。

「まったく…可愛い奴だよ、お前は」

無意識に呟いた言葉ははたして彼に聞こえただろうか。
ふわふわと髪を撫で付ける心地良いリズムに促されて閉じた瞼の裏に映るのは、晴れた日の空を切り取ったような色をした彼の慈愛に満ちた瞳だった。





END.
20090828
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佐伯が愛しくて可愛くて仕方無くて甘える御堂さん。




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