仁王と喧嘩した。




「あはははははは仁王やばい!その顔やばい!」


部室にて幸村くんの笑い声が響く。何してんだよとか思いながら仁王を見ればなんかキモい顔してた。 んだそれ。なんもおもしろくねぇだろぃ。俺のがもっとおもしろい顔出来るし。


「ブン太聞こえとるぜよ」

「わりぃわりぃ。思わず心の声が漏れちまった」


きっとこの状況を絵に表すなら俺達の間に火花が散っているだろう。普段のブン太様はそれはそれはた いそう心が広いけど今日はそうはいかない。


「たかがお菓子ごときでウダウダ煩いぜよ。女か」

「あ?なに?幸村くんに笑われたからって調子乗んなよ?んな顔ちっともおもんねぇから」

「んならお前さんやってみんしゃい」


俺を試すように鼻で笑う仁王のどや顔が無駄にイライラする。仁王の向かい側に椅子を持ってきていき おいよく腰を下ろしわざわざ仁王に当てて足を組む。


「そんならにらめっこで勝負つけようぜ。笑ったら負けっつーことで」

「はっ。ハンデでもつけてやろうか?」

「笑いすぎてチビんなよ」
「どっちが」


こうして何故か部室のど真ん中で向き合う形になり、にらめっこ勝負が始まったのだが。 絶対笑うもんかと究極に変顔をきめて仁王を攻めてみるが効かない。つーかむしろ。


「ぶっはははははは。ちょっまじブン太豚だから!顔自重しろよ!」


幸村くんがゲラになってしまった。というか俺自身も仁王より幸村くんをわからかしにやっているよう な。いやだって眉を動かしただけでここまで笑うってなんか優越感に浸るっていうか、うん。


「ちょ仁王やめて!イリュージョンとか反則だろ!真田で変顔つくんないでっ…ぶっあはははは」


真田で変顔とか気になるんだけど。つーかイリュージョンずりぃだろぃ! とか思いながらも気になるから仁王を見た。

「ぶっ」

思わず出てしまった笑いに仁王は一瞬きょとんとした顔になるが、すぐにニヤニヤと笑いながらイ リュージョンでいろんな人の変顔を作り出す。わざわざ幸村くんと俺とを交互に見せながら。


「仁王まじそれやべぇって!おもしろすぎだろぃ!」

「待って待って、次四天宝寺の白石でやって…あっははははははは」

「ちょ次は氷帝の…」


いつしか注文をつけて仁王の変顔イリュージョンに夢中になり部室では幸村くんと俺の笑い声で溢れて いた。


「あははははっ。ってあれ、そういやなんでこんな事してんだっけ?」

目に溜まった涙を拭いながら幸村くんは俺達を見る。


「まぁ忘れる事だからたいした事じゃないだろぃ」

「確かに」

「なんか顔の筋肉が痛いぜよ…」

「明日仁王の顔が筋肉痛なってるよ」

「あははははははは」


俺達は鞄を抱えて戸締まりをし、仲良く三人で部室を出た。

でもなんでにらめっことかしてたんだっけ。



 
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